親から子どもへお金などを贈与することはよくあることであり、そのことに対して贈与税はかかるのだろうかと思う方もいるかもしれません。
本来は贈与税がかかるのに贈与税がかからないと誤解して贈与税を納めないままにしていると、税務署に指摘されて後から贈与税を納めなければならなくなることもあります。また、せっかく贈与税がかからないケースにあたるのに贈与税がかかると誤解してしまうと、贈与税を避けるために贈与を控えてしまうことにもつながりかねません。
この記事では、親子間の贈与で贈与税がかかるケースとかからないケース、親子間で贈与をするときの注意点などについて解説しています。この記事を読めば、親子間で贈与をする場合でも贈与税を納めなければならないのかそうでないのかを適切に判断することができるようになります。
目次
贈与税とは?
贈与税とは、個人から年間110万円を超える財産をもらった場合に、もらった側が納める税金のことです。
贈与税は、親子間の贈与であってもかかるのが原則です。もっとも、親子間の場合には、そうではない第三者間の場合と異なり、特別に贈与税がかからないケースがあります。
親子間で贈与をする場合には、贈与税がかかるケースなのかかからないケースなのかをしっかりと見極めて、適切に納税することが大切です。
親子間の贈与でも贈与税がかからない代表的な2つのケース
親子間の贈与でも贈与税がかからない代表的なケースには、主に2つあります。このことについてご説明します。
子どもの日常の生活費や教育費の贈与
例えば、親が子どもに対して行う学費や生活費の仕送りには、それが実際に学費・生活費として必要な範囲にとどまる限り、贈与税がかかりません。
もっとも、学費・生活費として必要な範囲を超える部分については、贈与税の課税対象となります。
例えば、親が離れて東京で暮らす大学生の子どもに対し、毎年の学費とは別に毎月の生活費として月80万円を仕送りしていたとします。月80万円という生活費の仕送り額はかなり高額であり、東京で一人暮らしをする大学生の生活費としては必要な範囲を超えると判断される可能性が高いでしょう。この場合、必要な範囲を超えると判断された部分については、贈与税の課税対象とされます。
年間110万円までの贈与
贈与税の原則的な課税ルールである「暦年課税制度」の下では、贈与税は年間110万円を超えた贈与額に税率を掛けて計算します。このため、親が子どもに1年間に110万円以内の贈与をしただけであれば、贈与税は発生しないこととなります。
例えば、ある年に親から子どもに現金100万円を一括で贈与した場合には、贈与額が110万円以下なので贈与税はかかりません。
また、ある年に親から子どもに現金200万円を一括で贈与した場合には、「200万-110万=90万円」の部分に対して所定の税率を掛けて計算された贈与税がかかることになります。
「相続時精算課税制度」を使えば合わせて2,500万円までは贈与税が非課税に
贈与税の原則的な課税ルールは「暦年課税制度」ですが、税務署に届出をすることによって課税ルールを「相続時精算課税制度」に切り替えることができます。
「相続時精算課税制度」では、合わせて2,500万円までの贈与であれば贈与税が非課税になります。その代わりに、そのうちの一定の額については相続税の対象になります。
具体的には、相続時精算課税制度を選択した場合には、次のようなルールで贈与税や相続税が課せられます。
まず、年間110万円までの贈与については贈与税も相続税もかかりません。
このように、相続時精算課税制度は、年間110万円を超えるようなまとまった財産を贈与したときに贈与税の対象ではなく将来の相続税の対象とすることで、贈与を受けた時点では贈与税を支払わなくても済むというメリットがあります。
なお、相続時精算課税制度の適用を届け出た場合には、後から暦年課税制度に戻すことはできません。相続時精算課税制度の適用を選ぶべきなのかどうか判断に迷った場合には、弁護士や税理士などの専門家に相談してから決めるとよいでしょう。
教育、結婚・子育て、住宅資金は特例制度を使えば贈与税が非課税に
親子間の贈与については、これまでにご紹介した方法以外にも、次のような非課税制度が設けられています。これらの非課税制度を使うことで、贈与税を支払わずに贈与をすることができます。
「教育のためにまとまったお金を渡したい」「お金を渡して子育てを支援したい」「子どもの住む住宅のためのお金を出してあげたい」などという場合には、要件を満たして贈与を行うことで、これらの非課税措置の適用を受けることができます。
それぞれの贈与の上限額は、次のとおりです。
これらの非課税措置は臨時的な特例のため、次のように期限があります(2024年3月時点)。この期限は、法改正により延長されることがあります。
これらの特例の適用を受けようとする場合には、それぞれ決まった要件を満たす必要があります。要件を満たさないで贈与をしてしまうと贈与税の課税対象とされてしまうこともあるため、注意が必要です。これらの特例の適用を受けようとする場合には、要件を満たすか適切に判断するためにも弁護士や税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。
親子間の贈与で贈与税がかかる代表的なケース
ここまでは親子間の贈与でも贈与税がかからないケースをご紹介してきましたが、ここまでにご紹介したケースに当てはまらない場合には、親子間の贈与であっても贈与税がかかってしまいます。
ここからは、親子間の贈与で贈与税がかかる代表的なケースをご紹介します。
年間110万円を超えて贈与をしているケース
暦年課税制度の下で年間110万円を超えて贈与をしているケースでは、原則どおりその超えた部分について贈与税がかかってしまいます。
なお、親が子どもに仕送りなどをする日常の生活費や学費はそもそも非課税なので、その分は110万円の計算に入れません。日常の生活費や学費ではないプレゼントなどとしての贈与が110万円を超えた場合に課税対象となります。
教育費・生活費として受け取ったお金を実際に教育費・生活費として使っていないケース
親が子どもに教育費・生活費の名目で贈与したお金を子どもが実際には教育費・生活費として使っていないケースでは、非課税の対象外となり、贈与税がかかります。
例えば、親が子どもに毎月50万円を生活費の名目で仕送りしていたものの、実際には生活費だけで毎月50万円を必要とすることはなく、子どもが余った分として毎月30万円を投資に回していたとします。この場合には、投資に回していた毎月30万円は実際に生活費として使われていないため、贈与税の課税対象となります。
親が子の住宅ローンなど借金の肩代わりをしたケース
親が子どもの借金を肩代わりするケースがあります。この場合にも、親が子どもに代わって支払った借金の相当額が贈与税の課税対象となります。
例えば、子どもが300万円の借金を負っており、親が子どもに代わってその借金を全額返済したとします。この場合、お金の流れとしては親から子どもにお金が渡されたわけではなく、贈与があったとはいえないようにも見えます。しかし、実質的に見ると子どもは親からお金を受け取ってそのお金で借金を返した場合と同じであり、子どもは親の経済的負担によって300万円の経済的利益を得ています。
このように、親が子どもの借金を肩代わりするケースでは、贈与があったものとみなされ、贈与税が課せられることとなります。
高価な美術品を安く譲り渡したケース
高価な美術品や宝石などを子どもが親から相場より安く譲ってもらった場合、一見すると子どもが親にお金を払って安く買っただけなのだから、贈与税がかからないようにも思えるかもしれません。
しかし、親子間だからこそ相場より安く美術品を譲り渡したと考えることもできます。
このような場合には、譲り渡した美術品などの相場価格と実際に子どもが親に対して支払った金額との差額が、親から子どもに贈与されたものと判断され、贈与税の課税対象となります。
親が保険料を支払った生命保険金を子が受け取ったケース
親が保険料を支払った生命保険金を子どもが受け取ったケースでは、贈与税がかかります。
実質的には親が子どもにお金を渡したのと同じように考えることができるからです。
例えば、次のようなケースがあります。
なお、けがや病気の場合に受け取れる保険金を受け取った場合には非課税とされます。
親子間で贈与をするときの注意点
親子間で贈与をするときの注意点をご説明します。
親が経営する会社から子どもへの贈与は贈与税ではなく所得税がかかる
親が会社の経営者で、会社の財産を子どもに贈与しようというケースがあります。
会社が所有する財産を子どもに贈与する場合には、贈与税の課税対象とはなりません。その代わりに、所得税の課税対象とされます。
贈与税は、人から人への贈与を課税対象としており、ここでいう人には法人(会社)は含まれないからです。
所得税と贈与税とでは、計算のしかたや申告・納付のしかたが異なります。親の会社から子どもに財産を贈与した場合には、誤って贈与税の課税対象として申告してしまわないようにしましょう。
「配偶者の親」から贈与してもらった財産は全て贈与税の対象になる
配偶者の親から自分へと財産を贈与してもらうケースがあります。例えば、あなたとその妻とが一緒に暮らしているものの、あなたが失業してしまったために一時的に生活が苦しくなってしまい、あなたの妻の父親からあなたに対して当面の生活費として現金が贈与されるケースなどです。
配偶者の親は、いったん結婚してしまえば義理の親であり、親子間の贈与と同じルールが適用されるのではないかと考える方もいるかもしれません。しかし、贈与税の課税にあたってはそのように考えず、配偶者の親も無関係の第三者と同じ立ち位置で贈与税の課税の有無が判断されます。
もし親子間の贈与のルールが適用されるのであれば、上の例では生活費が贈与されているために非課税となりますが、実際には配偶者の親からの贈与は無関係の第三者からの贈与と同等に扱われるため、贈与税がかかることになります。
上の例で、もし贈与税を非課税のままにしておきたいなら、配偶者の親からその子どもである配偶者へと贈与をするようにするとよいでしょう。
養子への贈与は実子への贈与と同様に考える
あなたに養子がいて、養子に対して贈与をしようという場合、養子であっても実子と同様に取り扱われるのかどうかが気になるところかもしれません。
贈与税の課税にあたっては、養子は実子と同様に取り扱われます。このため、あなたから養子への贈与は、ここまでにご説明した親子間の贈与のルールに従って贈与税の課税の有無が判断されます。
「名義預金」は贈与には該当せず相続税の課税対象になる可能性が高い
「名義預金」とは、親が子ども名義の預金口座を作成し、その口座に一方的にお金を振り込んでおく形で作られた預金のことです。例えば、子どもがまだ未就学児の時に子ども名義の預金口座を作り、毎年一定額をその子ども名義の預金口座に振り込んでおき、子どもが成人したら預金口座の管理を引き渡すなどのことが行われます。
このような名義預金は、親としては子どもに対して財産を贈与するつもりで行っていることが通常です。名義預金は親から子どもへの贈与であり親子間の贈与のルールが適用される、と思われるかもしれません。
しかし、名義預金は贈与ではないと判断されることが多いです。これは、名義預金口座の存在や振込額などを子どもは認識しておらず、贈る側と受け取る側の両方の合意によって贈与が成立したとはいえないからです。
名義預金が贈与ではないと判断される場合、親が名義預金口座に毎年お金を振り込んだとしてもそれに対して贈与税がかかることはありません。
もっとも、この場合には名義預金は親自身の財産だと判断されるため、名義預金を子どもに引き渡さないまま親が亡くなった場合には遺産の一部として相続税の課税対象となります。
また、親が存命中に子どもに名義預金口座のお金を引き渡した場合には、その時に贈与税がかかることがあります。
名義預金への課税は、口座の名義という形式にとらわれず、誰が財産を管理・支配しているかという実質的な側面から判断されるため、どの段階で贈与税がかかるのか、それとも相続税がかかるのかの判断が難しいものです。判断に困ったら、弁護士や税理士といった専門家に相談するようにしましょう。
贈与税の無申告は親子間であっても税務署にばれると思っておくべき
贈与税は、申告により課税される税であるため、「親子間のことでもあるし黙っていればばれないのではないか」と考える方もいるかもしれません。
しかし、親子間の贈与であっても贈与税の無申告は税務署にばれると思っておくべきです。
贈与されたものが不動産であれば、不動産の名義変更をしたことがきっかけで税務署に贈与がばれる可能性があります。また、贈与されたお金が銀行口座に振り込まれた場合には、その額が多額であれば税務署から「このお金の出どころはどこなのか?」と追及される可能性もあります。親が存命中に何も指摘されなかったとしても、親が亡くなって相続が発生した段階で贈与があったことが税務署に知られてしまうこともあります。
贈与税の無申告が発覚した場合には、本来納めなければならなかった贈与税そのものに加えて、無申告加算税などのペナルティとしての税金が課せられます。このようなペナルティとしての税金が課せられる結果、最初から正しく申告していた場合よりも多くの税金を納めなければならないこととなってしまいます。
贈与税の無申告は親子間の贈与であっても税務署にばれると思っておいたうえで、親子間の贈与があったときには贈与税を納めなければならないケースかを判断し、必ず贈与税の申告・納付をするようにしましょう。
贈与税を納めなければならないのかよく分からない、申告・納付のしかたが分からないという場合には、弁護士や税理士といった専門家に相談するようにしましょう。
まとめ:親子間の贈与で贈与税がかかるかどうか分からなければ専門家に相談を
親子間での贈与には、できれば贈与税を課せられたくはないですよね。また、贈与税がかかってしまうとしても、贈与税の申告・納付を怠ってペナルティを課せられたくはないはずです。
親子間の贈与は、第三者間の贈与と少し異なり、贈与税がかかるケースとかからないケースとがあります。例えば、日常の生活費・学費の贈与であれば、贈与税はかかりません。逆に、贈与税がかからないケースに当てはまらないのであれば、原則どおり贈与税がかかってしまいます。
親子間の贈与をするにあたっては、その贈与で贈与税がかかるのかどうかをしっかりと見極める必要があります。贈与税がかかるのであれば、贈与税を納めなければなりません。贈与税がかかるかどうかの判断を誤ってしまうと、贈与税を納めなくてもいいと思っていたのに後から税務署に指摘されて贈与税を納めなければならなくなってしまうということもあり得ます。
親子間の贈与で贈与税がかかるかどうかが自分では自信をもって判断できないという場合には、専門家に相談するのもひとつの方法です。弁護士や税理士といった専門家に相談すれば、贈与税がかかるかどうかを正確に見極めて適切なアドバイスをしてくれます。
親子間の贈与で困ったら、迷うことなく弁護士や税理士といった専門家に相談しましょう。