「相続放棄をしようと思うが、必要書類について知りたい」
相続放棄をするにあたっては、必要書類を集めて裁判所に提出しなければなりません。
必要書類は常に同じではないため、場合に応じて適切な必要書類を用意することが大切です。
この記事では、相続放棄の必要書類について詳しく解説しています。
この記事を読むことで、被相続人との関係に応じて異なる相続放棄の必要書類を正確に知ることができ、相続放棄をスムーズに成功させることが可能になります。
目次
相続放棄とは
相続放棄をするのは、主に相続人の遺産の中に借金や負債といったマイナスの財産が多くあるケースです。このようなケースで相続放棄をすれば、借金などを受け継いで代わりに返済する義務を免れることができます。
家庭裁判所における相続放棄の申述の手続きの中では、いくつかの必要書類を提出する必要があります。「申述」といっても裁判所ではただ口頭で相続放棄をする旨を述べるのではありません。
相続放棄の手続きをスムーズに成功させるためには、提出する必要書類を正確に把握しておくことが大切です。
相続放棄の必要書類
相続放棄の必要書類にはさまざまなものがあります。
必要書類は、「誰が相続放棄をするか」によって異なり、全てのケースで共通する必要書類と被相続人(亡くなった人)と相続放棄をする人との関係に応じて異なる必要書類があります。
また、必要書類には、自分で作成するものと役所で取得するものがあります。
全てのケースで共通する必要書類
相続放棄をする人が誰であっても共通する必要書類には、次のものがあります。
□被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
□相続放棄をする人(申述人)の現在の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
また、以上のほかにも、相続放棄の手続きに必要な費用として収入印紙と郵便切手を納めなければなりません。
相続放棄申述書に記載する項目には、次のものなどがあります。
◆申述書を提出する家庭裁判所
◆申述書の作成年月日
◆申述人の記名・押印
◆申述人に関する情報(本籍・住所・氏名・生年月日・職業・被相続人との関係)
◆申述人の法定代理人に関する情報(申述人が成年被後見人等や未成年である場合)
◆被相続人に関する情報(本籍・最後の住所・職業・氏名・死亡日)
◆申述の理由(相続の開始を知った日・放棄の理由・相続財産に含まれる資産と負債の概略)
「住民票の除票」とは、死亡によって削除された住民登録の情報が記載されたものです。
住民票の除票には、住民票の写しと同様の情報が記載されているほか、死亡日についても記載されています。住民票の除票を見ることで、死亡当時の住所などのほか、死亡日を確認することができます。
住民票の除票は、被相続人の死亡当時の住所地(住民登録をしていた地)を管轄する市区町村の役所で取得できます。
住民票の除票の代わりに、戸籍の附票(の除票)を提出することもできます。
「戸籍の附票」とは、その戸籍がつくられた時から死亡等の理由で戸籍から除かれた時までの全ての住所の履歴がまとめられた書類です。戸籍の附票を見ることによっても、被相続人の死亡当時の住所等を確認することができます。
戸籍の附票は、被相続人の本籍地である市区町村の役所で取得できます。
「申述人の戸籍謄本」は、申述人の本籍や生年月日などの情報を確認できる書類です。
申述人の戸籍謄本は、申述人の本籍地である市区町村の役所で取得できます。
これらの書類は、いずれも役所の窓口で取得できるほか、郵送でも取得できます。
配偶者の必要書類
被相続人の配偶者が相続放棄をするケースでは、共通する必要書類に加えて次の書類が必要になります。
◆被相続人の死亡の事実が記載された戸籍謄本
もっとも、被相続人とその配偶者は同じ戸籍に記載されているため、被相続人が死亡した事実は、通常は共通して必要となる書類である「申述人の現在の戸籍謄本」の中に記載されています。申述人の現在の戸籍謄本の中に被相続人が死亡した事実が記載されている場合には、別々に書類を用意する必要はありません。
結局、配偶者が相続放棄をする場合には、一般的には先ほどご説明した共通して必要となる書類を提出するだけで足ります。
子の必要書類
被相続人の子が相続放棄をするケースでは、共通する必要書類に加えて次の書類が必要になります。
◆被相続人の死亡の事実が記載された戸籍謄本
もっとも、申述人である被相続人の子が未婚である場合には、通常は被相続人とその子は同じ戸籍に記載されています。このようなケースでは、申述人の戸籍謄本に被相続人の死亡の事実が記載されているため、申述人の戸籍謄本とは別に被相続人の死亡の事実が記載されている戸籍謄本を取得する必要はありません。
これに対し、被相続人の子がすでに結婚している場合には、被相続人とその子は別の戸籍に記載されています。このケースでは、申述人の戸籍謄本とは別に被相続人の死亡の事実が記載されている戸籍謄本を取得する必要があります。
孫の必要書類
孫が相続放棄をするケースでは、共通する必要書類に加えて次の書類が必要になります。
□本来の相続人の死亡の事実が記載された戸籍謄本
被相続人に子と孫がいて、子が孫より先に亡くなっている場合には、その亡くなっている子に代わって孫が相続人となります。このことを「代襲相続」といいます。
代襲相続の場合、すでに亡くなっている相続人のことを「本来の相続人」、その相続人に代わって相続人となる者のことを「代襲相続人」と呼ぶこともあります。
代襲相続人である孫が相続放棄をする場合には、本来の相続人である子が亡くなっていることを証明するために、「本来の相続人の死亡の事実が記載された戸籍謄本」を提出しなければいけません。
また、被相続人と孫はそれぞれ別の戸籍に記載されているため、「被相続人の死亡の事実が記載された戸籍謄本」も別途用意して提出しなければなりません。
原則としては以上のとおりですが、代襲相続人と本来の相続人が同じ戸籍に記載されている場合には、提出するのはひとつの戸籍で構いません。代襲相続人が未婚である場合には、本来の相続人と同じ戸籍に記載されていることが一般的です。
親の必要書類
被相続人が亡くなった時点で被相続人に子や孫がいない場合や、被相続人に子や孫がいるもののその全員が相続放棄をした場合などには、被相続人の親が相続人となります。
被相続人の親が相続放棄をするケースでは、共通する必要書類に加えて次の書類が必要になります。
□被相続人の子や孫の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本(被相続人に子や孫がいたものの、すでに亡くなっている場合)
被相続人の親が相続人となるためには、被相続人に存命の子どもなどがいないことが必要となります。このことは、「被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本」を調べることで確認できます。
また、被相続人に子や孫がいた場合には、その者に子どもなどがいないことを確認しなければ、親が相続人になるかどうかを確定することができません。このため、「被相続人の子や孫の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本」を調べる必要があります。
祖父母の必要書類
被相続人の祖父母が相続人となるケースとは、被相続人の親が相続人となる条件を満たしている場合であって、被相続人の親がすでに亡くなっており、被相続人の祖父母だけが存命であるケースです。
このケースでは、被相続人の親が相続放棄をするケースで必要になった書類に加えて、次の書類が必要となります。
◆被相続人の親が死亡した事実が記載されている戸籍謄本
兄弟姉妹の必要書類
被相続人の兄弟姉妹が相続放棄をするケースでは、共通する必要書類に加えて次の書類が必要になります。
□被相続人の子や孫の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本(被相続人の子や孫が亡くなっている場合)
□被相続人の親が死亡した事実が記載されている戸籍謄本
□被相続人の祖父母が死亡した事実が記載されている戸籍謄本
これらの書類を調査することで、被相続人の子、孫、親、祖父母が存命ではないため相続人とならず、結果として兄弟姉妹が相続人となることが確認できます。
なお、被相続人が高齢であるケースにおいて、被相続人の親の生年月日を確認すれば被相続人の祖父母がすでに亡くなっていることを事実上確認できる場合には、被相続人の祖父母の戸籍謄本は提出しなくてもよいとされることがあります。
おい・めいの必要書類
この場合には、被相続人の兄弟姉妹の子が代襲相続によって相続人となります。
被相続人のおい・めいが相続放棄をするケースでは、被相続人の兄弟姉妹が相続放棄をするケースで必要となる書類に加えて次の書類が必要となります。
◆被相続人の兄弟姉妹が死亡した事実が記載されている戸籍謄本
被相続人のおい・めいが相続放棄をするケースが、最も多くの書類を必要とするケースです。
被相続人のおい・めいも亡くなっている場合や、おい・めいが相続放棄をした場合には、それ以上は他の人が相続人となることはありません。
相続放棄に必要な費用
相続放棄に必要な費用は、収入印紙と郵便切手の形で必要書類とともに裁判所に提出します。
収入印紙として納める額は、裁判所に手続きを求めるための手数料です。郵便切手として納める額は、裁判所が連絡の書類を送るための郵便費用です。
具体的に必要な額は次のとおりです。
◆収入印紙:申述人1人あたり800円分
◆郵便切手:裁判所ごとに異なるため、事前に裁判所に問い合わせて確認します。
収入印紙が購入できる場所は、原則として郵便局です。そのほかにも、法務局やコンビニ、金券ショップ、オークションサイトなどで購入することもできます。
相続放棄の必要書類の提出先
相続放棄の必要書類を用意したら、相続放棄の手続きを管轄している家庭裁判所に書類を提出します。
相続放棄の手続きを管轄している家庭裁判所とは、被相続人が亡くなった当時の住所地を管轄する家庭裁判所です。
相続放棄の必要書類を提出する方法
相続放棄の必要書類を提出する方法には次の2つがあります。
◆家庭裁判所の窓口に直接提出する
◆家庭裁判所に郵送する
また手続きの形式的な面について裁判所の職員に質問することもできます(相続放棄の申述が有効にできる要件を満たしているかなど実質的な面については基本的に質問に答えてもらえません)。
もっとも、裁判所の窓口は平日の昼間しか開いていないため、平日の昼間に裁判所に行くことができない方は、郵送で書類を提出するのがおすすめです。
郵送で書類を提出する場合には、郵送する前に書類が全て揃っているかをしっかりと確認しましょう。
相続放棄の必要書類の取得方法
相続放棄の必要書類としてご紹介した書類のうち申述書以外の公的な書類は、市区町村の役所の窓口で取得することができます。
住民票については住所地、戸籍謄本やその附票については本籍地の役所で取得します。
これらの書類を取得するには、役所の窓口に直接出向いて書類を請求する方法と郵送で書類を請求する方法があります。
郵送で書類を請求する場合には、書類の取得費用を定額小為替の方法で役所に納めなければなりません。定額小為替は、郵便局の窓口で購入することができますが、購入の際に1枚200円の手数料がかかります。
購入した定額小為替を戸籍謄本等の請求書に同封して役所に送ることで、取得費用を支払います。
相続放棄の必要書類を取得するための費用
相続放棄の必要書類を取得する際に役所に納める取得費用は、次の額が目安となります(1通あたり)。
□戸籍謄本:450円
□除籍謄本(死亡等により戸籍から除かれている場合の謄本):750円
基本的にはこれらの金額となりますが、市区町村によっては金額が異なることもあるため、正確な額は窓口で確認しましょう。
相続放棄について相談できる専門家
相続放棄を自分で行う場合には、必要書類を集めたり申述書を作成したりすることを全て自分で行わなければなりません。
しかし、これまで戸籍謄本などを自分で取り寄せたことがなく、自分で必要書類を集めるのは不安だという方もいるでしょう。
また、一度は自分で必要書類を集めようとしたものの、結局よく分からなくなって専門家に相談したいという方もいるのではないでしょうか。
相続放棄の手続きを専門家に依頼すれば、必要書類の収集から提出まで全ての手続きをあなたに代わって行ってくれます。
相続放棄の手続きを相談・依頼できる専門家は、主に弁護士です。また、司法書士も相続放棄の手続きを代行してくれることがあります。
これに対して、行政書士や税理士などその他の士業は相続放棄の手続きを代行することが法律上認められておらず、相談しても対応できないので、注意しましょう。
相続放棄の手続きを専門家に依頼すれば、必要書類を自分で集める手間や負担がなくなり、正確かつ迅速に必要書類を集めて提出してくれるので、安心して相続放棄の手続きを進めることができます。
少しでも相続放棄手続きで困ったら、すぐに弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。
相続放棄の必要書類に関してよくある質問
相続放棄の必要書類に関してよくある質問をご紹介します。
戸籍謄本と戸籍全部事項証明書は同じもの?
「戸籍謄本」と「戸籍全部事項証明書」は、名称が異なりますが同じものと考えてかまいません。
昔は、戸籍は紙で作成されていました。この紙の戸籍の内容をそのままコピーした証明書のことを、「戸籍謄本」と呼びます。
その後、ある時期から戸籍がコンピューターで作成・管理されるようになりました。このコンピューター化された戸籍の内容をそのまま証明する書類のことを、「戸籍全部事項証明書」と呼びます。
必要書類として「戸籍謄本」または「戸籍全部事項証明書」と書かれている場合には、戸籍の内容が全て証明されている書類であれば、特に両者の違いを意識する必要はありません。また、役所の窓口でも単に「戸籍謄本」または「戸籍全部事項証明書」のどちらかの呼び方で伝えれば問題なく通じます。
戸籍が必要な場合に「戸籍抄本」や「戸籍一部事項証明書」を取得・提出してもよい?
「戸籍抄本」と「戸籍一部事項証明書」は基本的に同じものを指しており、戸籍のうち一部(ある特定の人に関する記載部分)のみを証明したものです。
相続放棄の必要書類を集めるにあたっては、基本的には常に戸籍謄本や戸籍全部事項証明書を取得しておけば間違いがありません。誤って戸籍抄本や戸籍一部事項証明書を取得・提出してしまうことのないようにしましょう。
住民票と住民票の写しの違いは何?
「住民票」と「住民票の写し」は基本的には同じものと考えて構いません。
厳密には、役所の窓口でもらう証明書のことを住民票の写しと呼ぶのに対し、住民登録の事項が記録された役所の内部にある原本のことを住民票といいます。
窓口で交付される証明書は、役所で保管されている原本の内容を証明したものであって原本そのものとは厳密には別の書類です。
もっとも、日常用語としては住民票の写しのことを指して単に住民票と呼ぶことも多くあります。
必要書類として住民票の写しが要求されている場合には、役所の窓口で交付される証明書のことを指しており、日常用語でいう住民票のことと考えて構いません。
住民票の写しとは役所の窓口で取得した証明書をコピーしたものを指しているのではないので、そのことには注意が必要です。
相続放棄の必要書類を一部だけ自分で集めたものの途中から専門家に任せることはできる?
相続放棄の必要書類を一部だけ自分で集めたものの、さまざまな事情により途中から専門家に任せることもできます。
相続放棄の必要書類を自分だけで集めようと考えたものの、いざやってみると難しいということも多いです。このような場合には途中からでもいいので専門家に任せるとよいでしょう。自分だけでやることにこだわって相続放棄に失敗してしまうのが最も避けるべき事態です。
途中から専門家に任せる場合には、自分で取得した証明書を専門家に引き継ぐと、専門家が重複して証明書を取り寄せる必要がなくなり効率的です。
本籍と住所はどう違う?
本籍は、住所と同じとは限りません。また、本籍は戸籍を作成した時に定めるので、引っ越しをしても変わりません。本籍は、戸籍を特定するためのキーワードの一種だと考えるとよいでしょう。
戸籍謄本は本籍がある場所で取得するのに対し、住民票は住所がある場所で取得します。
どの書類を本籍または住所のいずれがある場所で取得するのかを、しっかり把握しておくようにしましょう。
本籍地が分からない場合にはどうやって調べたらいい?
本籍地が分からない場合には、住所地において「本籍の記載がある住民票の写し」を取得します。
本籍の記載がある住民票の写しを取得するには、住民票の写しを請求する際に本籍も記載するように求めましょう。
本籍が分かれば、その本籍地において戸籍謄本を取得することができます。いったん戸籍謄本を取得することができれば、本籍が変わっていってもその戸籍謄本に一つ前の本籍が記載されているので、順番に過去の本籍や戸籍をたどっていくことができます。
裁判所に郵送で書類を提出する際には書留郵便で送る必要はある?
裁判所に郵送で書類を提出する際にどのような方式で送らなければならないかは、特に定められていません。
もちろん、普通郵便で書類を提出しても構いません。もっとも、普通郵便であれば配達状況を追跡することもできませんし、郵便事故によって郵便が届かないこともあります。また、郵便事故の際には基本的に補償がなされません。このため、普通郵便で送ることはあまりおすすめできません。
裁判所に書類を提出する際には、配達状況の追跡ができる特定記録郵便やレターパックで送るのがおすすめです。もちろん、大切な書類を送るので、書留郵便で送っても構いません。
なお、特定記録郵便などで送る際には、速達もつけるとよいでしょう。速達をつけることでできるだけ早く裁判所に書類を届けることができ、相続放棄の期限を過ぎてしまうリスクを減らすことができます。
相続放棄の期限は、自己のために相続が開始したことを知った日から3か月です。
まとめ:相続放棄の必要書類は続柄に応じて異なる
相続放棄の必要書類は続柄に応じて異なります。
相続放棄を申し立てる人が被相続人とどのような関係なのかをしっかりと見極めて、被相続人との関係に応じて必要な書類を準備するようにしましょう。
特に、相続放棄を申し立てる人が被相続人と遠い関係である場合(兄弟姉妹やおい・めいなどの場合)には、集めなければならない必要書類が多くなります。必要書類を集めるのに手間取って相続放棄の期限を過ぎてしまうことがないように十分注意しましょう。
相続放棄の必要書類を自分だけでうまく集められないという場合には、弁護士などの専門家に相談・依頼することもおすすめです。
相続放棄には期限があるため、弁護士などの専門家に依頼するのであればできるだけ早く依頼するべきです。
相続放棄の手続きを自分だけですることが難しいと少しでも思ったら、手続きを弁護士などの専門家に依頼して、相続放棄を確実に成功させましょう。