遺産隠しを疑ったらどうする?調査方法や発覚時の対処法を解説

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「他の相続人が遺産隠しをしているかもしれない。どうすればいい?」

相続時の遺産分割の際には、相続人の誰もが納得できる形で遺産を公平に分けることが大切です。この際に実は分けるべき遺産が隠されていたとすれば、納得できる形の遺産分割をすることはできません。

遺産隠しを疑ったら、まずはどのような遺産があるのかについてしっかり調査することが必要です。また、適切な対処法を取ることで遺産隠しのトラブルをより良く解決することができます。

この記事では、遺産隠しを疑った場合の調査方法や遺産隠しが発覚した場合の対処法について解説しています。

この記事を読むことで、遺産隠しを疑った場合にも適切に対応することが可能となります。

遺産隠しを疑うべきケース

「遺産隠し」とは、相続時の遺産分割に際して一部の相続人が遺産の存在を故意に隠したり少なく申告したりするなどして正確に伝えない行為のことです。

遺産隠しは、不正に遺産を隠して遺産分割の対象から除き、最終的には着服する目的で行われるものであり、許される行為ではありません。

次のようなケースでは、遺産隠しを疑ってみてもよいかもしれません。

  • 被相続人が生前に語っていた財産の内容と把握できた遺産との間に大きな食い違いがある
  • 他の相続人が被相続人の預金や財産を勝手に使い込んだ形跡が残っている
  • 被相続人の財産を管理していた相続人が遺産についての詳細を明らかにしてくれない

「あるはずの遺産がない」という場合には遺産隠しを疑うことができます。

例えば、被相続人が生前に「A銀行にまとめてお金を預けてある」と言っていたのに遺産の中にA銀行の預金が全く見当たらなければ、預金が引き出されてどこかに隠されている可能性があります。

また、他の相続人が「遺産の中に不動産はない」と言っているのに、被相続人が生前に受け取っていた書類の中に固定資産税の納付に関係する書類があれば、実は不動産が隠されているのではないかと疑うきっかけになります。

実際には遺産隠しではないというケースも多くあるため、焦って決めつけてしまうことは望ましくありません。

しかし、正確に遺産分割を進めるために遺産の内容を把握することは何もおかしなことではないので、少しでも疑いを抱いたら放置せずにしっかりと調べることが大切です。

遺産隠しを疑った場合の調査方法

遺産隠しを疑ったら、まずはどのような遺産があるのかなどについて調査を行いましょう。

調査の方法は遺産の内容に応じて異なります。

他の相続人に直接確認する

全ての種類の遺産に共通することとして、遺産隠しを疑ったら、まずは遺産を隠しているのではないかと思われる相続人やその他の事情を知っていそうな相続人に直接確認してみることが重要です。

直接確認することで、ご自身の勘違いだった場合にはそのことが分かります。また、他の相続人による遺産の管理が甘くうっかり遺産の中に含めるのを忘れているだけなど悪意がない場合には、そのことが判明して間違いを直してもらうこともできるでしょう。

他の相続人に直接確認して問題が解決すれば、必要以上に相続人間の関係が悪化することも防げます。

預貯金を調査する

直接確認するだけではいまいち信用できないという場合や、念のために裏付けを取っておきたいという場合などには、各財産をご自身で調査することが必要です。

預貯金を調査する場合には、被相続人が口座を持っていたと思われる銀行に対して残高証明書や取引履歴を請求してみましょう。

残高証明書や取引履歴は、相続人であれば銀行所定の手続きをとることで取り寄せることができる書類です。

被相続人が亡くなった日の残高証明書を取り寄せれば、相続開始時の預金残高を確認することができます。また、取引履歴を取り寄せれば過去の入出金の履歴を把握することができます。

これにより、預金の動きに不審な点がないかを確認することが可能となります。

預貯金の調査は銀行ごとにひとつひとつ行っていかなければなりません。被相続人がどの銀行と取引があったのかを郵便物や通帳などから丁寧に洗い出し、取引があったと思われる銀行を順番に調べていくとよいでしょう。

不動産を調査する

被相続人が所有していた不動産を調べるには、不動産があると思われる市区町村で「名寄帳」を取得します。

「名寄帳」とは、その市区町村内で所有している不動産を一覧にしてまとめたもののことです。名寄帳を見れば、その市区町村内で所有している不動産をもれなく把握することができます。

もっとも、名寄帳は市区町村ごとに作成されているため、他の市区町村の情報は手に入りません。心当たりのある市区町村が複数あれば、それぞれの市区町村において名寄帳を取得する必要があります。

このほかに、被相続人が受け取った固定資産税の納税通知書を確認することも大切です。

「固定資産税」とは不動産を所有していることに対してかけられる税金で、納税通知書を受け取っていれば相続開始時にその不動産を所有していた可能性があります。

参考:
固定資産税・都市計画税(土地・家屋)|東京都主税局
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/shitsumon/tozei/index_o.html#qa_0_5

株式・投資信託等を調査する

株式や投資信託などは、預貯金とは異なり証券会社などの口座で取引がなされます。このため、預貯金とは別に調査が必要です。

被相続人がどの証券会社の口座を持っていたかが分かっているなら、証券会社に問い合わせることで取引履歴などが分かることがあります。

口座をどの証券会社に持っているかが分からない場合には、証券会社からの郵便物・メールなどが残っていないか確認することで取引のある証券会社を把握できます。

遺産隠しが発覚した場合の対処法

遺産を調査した結果、遺産隠しが発覚したら、適切な対処をすることが必要となります。

遺産隠しが発覚した場合の対処法についてご説明します。

遺産分割協議をやり直す

まずは遺産分割協議のやり直しを検討してみましょう。

遺産分割協議をやり直すことはできないのが原則です。

しかし、絶対にやり直しができないわけではなく、例外的にやり直しが許されることもあります。それが、相続人全員が遺産分割協議のやり直しに合意した場合です。

また、やり直しの合意の有無にかかわらず、錯誤や詐欺を原因とする遺産分割の取消しが可能な場合もあります。

錯誤(民法95条)とは、簡単に言えば、合意の基礎となる重要な事項に思い違いがあり、そのような思い違いがなければ合意をしなかったという場合に、後から合意を取り消すことができる制度です。
また、詐欺(民法96条)とは、合意の相手方などにだまされて思い違いをし、そのような思い違いに基づいて合意を成立させたという場合に、後から合意を取り消せる制度です。

遺産隠しがあると、「遺産という重要な事項について遺産はこれで全てだと思い違いをしており、隠された遺産が存在すると知っていれば当初のような遺産分割に合意しなかった」「遺産隠しをした者によって遺産が他にないとだまされて当初の遺産分割に合意した」ともいえることがあります。

このような場合には錯誤や詐欺を主張して遺産分割への合意を取り消し、遺産分割のやり直しを求められることもあります。

このほか、遺産分割そのもののやり直しを求めるのではなく、新たに発見された遺産を対象として追加で遺産分割協議を行うという方法もあります。

この場合には、すでになされた遺産分割の結果は有効なものとしてそのまま受け入れつつ、新たに発見された遺産について、これまでの遺産分割の内容や遺産隠しがなされていたことなどの事情を加味しながら分割方法や割合を決めていくことになります。

裁判手続を通じて解決を目指す

遺産分割協議のやり直しに相続人全員が同意しない場合などには、調停や訴訟などの裁判手続を通じて解決を図るという方法もあります。

この場合には、遺産分割調停を申し立てたり、それがまとまらないときには遺産分割無効確認請求訴訟を提起したりして、当初の遺産分割の無効とやり直しを求めます。

無効が認められれば、再び他の相続人と遺産分割協議を行うこととなります。

遺産隠しをして遺産を着服した相続人に対しては、着服した財産を返還するように不当利得返還請求をすることもできます。

「不当利得返還請求」(民法703条)とは、その財産を取得する法律上の根拠がないのに財産を取得している者に対して、その財産を返すように求めることです。

任意に返還してくれない場合には、不当利得返還請求訴訟を提起することもできます。

遺産隠しのトラブルに関して押さえておくべきポイント

遺産隠しのトラブルに巻き込まれたら押さえておきたいポイントがいくつかあります。

遺産隠しが発覚したら時効に注意する

遺産隠しが発覚したらいつまでも放置しておくべきではありません。

遺産分割のやり直しを求める上で注意するべきなのが時効です。

先ほどご説明した錯誤取消しや詐欺取消しには時効があります。遺産隠しの場合には次の期間が時効期間であり、このいずれかを過ぎるともはや遺産分割を取り消すことができなくなってしまいます(民法126条)。

  • 遺産隠しが発覚した時から5年
  • 遺産隠しが実際に行われた時から20年

また、遺産隠しの不当利得返還請求には次のいずれかの時効期間が定められています(民法166条1項)。

  • 遺産隠しが発覚した時から5年
  • 遺産隠しが実際に行われた時から10年

このため、例えば2024年11月1日に遺産隠しが発覚し、その後どう対応するか迷ったまま2029年12月1日になってようやく遺産分割を取り消したり着服された遺産について不当利得返還請求をしたりしようと決意したとしても、発覚から5年を過ぎており時効によってこれらの主張ができないこととなります。

なお、相続人全員が合意して遺産分割をやり直す方法については、特に時効は定められていません。どれだけ経っていても、合意がある限り遺産分割のやり直しはできます。

このため、これらの時効期間が経過した後に遺産分割をやり直すのであれば、相続人全員の合意を得てやり直しをするしかないことになります。

隠された遺産が使い込まれたら回収できないリスクがある

例えば、遺産隠しの中には、遺産の中の預金を着服してすでに使い込んでしまったというケースがあります。

このような使い込みのケースでは、使い込んだ相続人に対して不当利得返還請求をして使い込んだ分のお金の返還を求めていくことになります。

しかし、使い込みを行う相続人が必ずしも返還できるだけのお金を現実に持っているとは限りません。

例えば、見るべき財産を有しない相続人が遺産の中から1,000万円分の預金を着服して全て使い切ってしまったというような場合には、その相続人から1,000万円を返還してもらうのは難しいでしょう。

着服した遺産の返還請求をする権利は有していても、それを実現して実際に返してもらえなければ何の意味もありません。

遺産隠しはそれを行う本人が資産を有していないからこそ行われることも多いため、使い込まれた遺産は回収できないリスクがあるということには十分に留意することが必要です。

このリスクに対応するためには、なるべく早く遺産隠しを発見することが大切だということになります。

遺産分割協議をやり直す際には税の負担が増えないか注意する

遺産分割協議をやり直すと、贈与税や相続税の負担が増えることがあります。

思わぬ形で支払う税金が増えてしまうと、経済的な負担が増えて当初の資金計画が狂ってしまうことにもなりかねません。

遺産分割協議をやり直す際には、税の負担が増えるリスクを認識したうえで、実際の税負担がどうなるかを税理士のような専門家に確認するなどして適切に対応するようにしましょう。

警察は基本的には遺産隠しに対応してくれない

「遺産隠しは犯罪なのではないか?」と思う方もいるでしょう。

たしかに、遺産隠しは法律的には窃盗罪や横領罪が成立する可能性がある行為です。

しかし、だからといって警察に相談しても遺産隠しに警察が対応してくれることは基本的にはありません。

これは、相続争いという民事事件に警察が介入することを避けるということもありますし、犯罪の処罰という面から見ても一定の範囲内の親族との間で行われた窃盗や横領などは刑が免除されるという刑法上の規定があり(親族相盗例、刑法244条・255条)、実際には刑事処罰の可能性がないことが多いからです。

警察に相談しても対応してくれることは基本的にないため、遺産隠しは弁護士に相談するなどして民事上の手続きで解決を図ることが大切です。

遺産隠しのトラブルについて弁護士に依頼するメリット

遺産隠しのトラブルについて弁護士に依頼することには、さまざまなメリットがあります。

遺産の調査を代わりに行ってくれる

弁護士に依頼すれば、遺産隠しが行われていないかも含めて遺産の調査を代わりに行ってくれます。

相続手続の経験が豊富な弁護士であれば、遺産調査のコツをよく把握しており、迅速かつ漏れなく遺産を見つけ出して把握してくれます。

ご自身で行うよりも迅速かつ正確に遺産調査を行ってくれるため、相続手続を効率的に進めることができます。

また、遺産隠しがなされていないかどうかを正確に見抜き、隠された遺産を発見する可能性を高めることができます。

遺産隠しをした疑いがある相続人との交渉を代わりに行ってくれる

ある相続人が遺産隠しをした疑いが確実となったら、その相続人との間で隠されていた遺産についてあらためて遺産分割をしたり、元の遺産分割のやり直しをしたりする必要があります。また、遺産を使い込んでいた場合には、使い込んだ分に相当する金銭を返還してもらうことも必要です。

遺産隠しをするような相続人とはもはや人間関係が壊れており、直接やり取りをしたくないという方も多いでしょう。

そのような場合でも、弁護士に依頼すれば弁護士があなたの代わりに遺産隠しをした相続人とのやり取りを全て行ってくれます。

これにより、あなたは必要以上にストレスを抱えることなく遺産隠しのトラブルの解決を待つことができます。

裁判手続への対応を任せることができる

遺産隠しのケースでは、遺産分割のやり直しを求めたり遺産を着服した相手の責任を追求したりして調停や訴訟などの裁判手続を行わなければならないことがあります。

裁判手続は、手続きの専門性が高く、ご自身だけではなかなかうまく行えないことも多いです。

弁護士に依頼すれば、あなたの代理人となって裁判手続を代行してくれます。また、任意の交渉など裁判の前段階から弁護士に依頼しておけば、一貫した対応を取ってもらうこともでき、より良い解決を実現できる可能性が高まります。

まとめ:遺産隠しは弁護士に相談しよう

遺産隠しは、遺産を調査することで発見できる可能性が十分にあるものです。遺産隠しの疑いを抱いたら、まずはしっかりと遺産を調査しましょう。

遺産隠しを見つけたら、遺産分割のやり直しなどを求めて手続きを進めていくこととなります。

遺産隠しへの対応にあたっては、弁護士に依頼して進めていくことがおすすめです。弁護士であれば遺産調査もしっかりと行ってくれますし、裁判の場でも代理人となって手続きを進めてくれます。

遺産隠しへの対応には時効の制約がかかってしまうこともあるため、発覚したらなるべくすぐに対応していくことが大切です。

遺産隠しを疑ったら、弁護士に依頼して的確かつ迅速な解決を図っていきましょう。

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相続のトラブルは弁護士しか対応できません。ご相談は早ければ早いほど対策できることが多くなります。

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