「家族信託で後悔した」という話をインターネットで目にしたり知り合いから聞いたりすることがあるかもしれません。家族信託を考えているところに「家族信託で後悔した」という話を聞くと、不安になってしまいますよね。
たしかに、家族信託は、うまくやらなければ失敗して後悔してしまうことがあるのも事実です。
しかし、失敗パターンを把握し、適切に成功のための対策を講じれば、家族信託を上手に活用することもできます。
目次
- 1 家族信託とはどんな仕組み?
- 2 家族信託で後悔した12の失敗パターン
- 2.1 親の病気が進んで信託契約が結べなくなる
- 2.2 兄弟や親族との間で家族信託を巡ってトラブルになってしまう
- 2.3 年金や農地など対象にできない財産を信託の対象にしてしまう
- 2.4 受託者に過度な負担がかかってしまう
- 2.5 受託者が財産を管理できなくなってしまう
- 2.6 受託者になったのに施設入所契約など身上監護ができない
- 2.7 遺留分を巡るトラブルに発展してしまう
- 2.8 30年ルールや1年ルールで強制的に信託契約が終了してしまう
- 2.9 自分で信託契約書を作ろうとするもののうまく作れない
- 2.10 信託口口座を開設するために必要な形で信託契約書を作れない
- 2.11 不動産所得の損益通算ができなくなり不利になる
- 2.12 適切な専門家に依頼できていない
- 3 家族信託を成功させるための4つの対策
- 4 家族信託を相談できる専門家には何がある?
- 5 家族信託を専門家に相談・依頼するメリット
- 6 家族信託を相談できる専門家を探すポイント
- 7 まとめ
家族信託とはどんな仕組み?
「家族信託」とは、相続対策の一種として使われることのある仕組みで、財産を持っている者のその財産の管理・処分について、家族などに委ねて託す信託契約のことです。
家族信託では、財産を受け継がせたい人(親など)が「委託者」となり、子どもなどの家族が「受託者」となり、受託者が財産を管理・処分等します。財産を管理等した結果生まれる利益を受け取る人のことを「受益者」といいます。
家族信託は当事者間で信託契約を締結して行うものであり、成年後見のように裁判所が決めるものではないので、信託法等のルールに従う限り、柔軟に家族信託の内容を設計することができます。当事者のニーズに合わせた設計がしやすいことが、家族信託の特徴です。
「家族信託で後悔する」のはなぜ?危険な制度?
「家族信託で後悔する」という声もありますが、全ての場合で後悔につながるわけではありません。家族信託そのものは、危険な制度ではありません。
家族信託で後悔するのは、多くの場合、これから紹介する失敗パターンに該当してしまった場合です。このように失敗してしまうのは、家族信託に関する専門的な知識が足りないまま中途半端に家族信託をしようとしてしまったことがほとんどです。
家族信託で後悔した12の失敗パターン
家族信託そのものは危険な制度ではありませんが、残念ながら「家族信託で後悔した」という結果に終わってしまうことがあるのも事実です。
ここからは、家族信託で後悔した失敗パターンをご紹介します。失敗パターンを把握して、ご自身がこれらのパターンに該当してしまわないかを確認しましょう。
親の病気が進んで信託契約が結べなくなる
相続対策を考え始めるきっかけは、「親が病気や認知症になってしまったから」ということが多いです。
しかし、家族信託を検討し始めて時間が経ってしまい、その間に親の病気が著しく悪化して意思疎通が取れなくなってしまったり認知症が重くなって家族信託について理解できなくなるなど判断能力が失われてしまったりすると、もはや家族信託のための契約を有効に締結することができなくなります。
家族信託は契約によって成立するものであり、契約は当事者(委託者・受託者。家族信託では親や子どもなど)が有効な契約をするための判断能力(意思能力)を有していなければ無効となってしまうからです。
特に、認知症はある程度の年齢になるとリスクが高まり、進行の程度も予測しづらく、今は大丈夫と思っていても急に進行してしまうこともあります。認知症が急に進行した結果、予想外にも家族信託契約を締結できなくなってしまうこともあります。
兄弟や親族との間で家族信託を巡ってトラブルになってしまう
親から子どもに財産を受け継がせることを目的とした家族信託では、基本的には、親が委託者となり、子どものうちの誰かを受託者として財産の管理を任せます。
子どもが一人しかいなければ特に問題は起きませんが、相続では複数の兄弟姉妹がいることが多いです。このとき、他の兄弟姉妹が家族信託について知らされていなかったり、家族信託の内容や仕組みなどについて十分に理解・納得していなかったりすると、「なぜ自分ではなくほかの兄弟姉妹が親の財産を管理するのか」「自分のいないところで勝手に話を進められるのは不愉快だ」などと不満や感情的な対立が起きてしまうことがあります。
また、家族信託を始めた後も、他の親族と十分な情報共有ができていなければ、「財産を勝手に使っているのでは?」といった不信感が生じるかもしれません。
年金や農地など対象にできない財産を信託の対象にしてしまう
家族信託では、すべての財産を信託の対象にできるわけではありません。信託に適さない財産や、そもそも信託の対象とすることができない財産も存在します。
家族信託契約を締結する際には、そのように信託の対象にできない財産を誤って信託の対象に加えてしまうことがあります。
また、地目が「農地」である土地についても、信託の対象とすることは基本的には自由にできません。農地法の制限により、農地を信託するには農業委員会の許可などが必要です。
さらに、預金債権(預貯金をしている銀行等の口座)についても信託財産として設定することはできません。預金債権には銀行との間の契約により譲渡禁止特約がつけられており、自由に譲渡することができないからです。
ただし、預金債権そのものではなく金銭の形にすれば家族信託の対象にできるので、信託口口座を開いて親の預金口座から信託口口座にお金を移す形で管理すれば、家族信託の対象とすることができます。
受託者に過度な負担がかかってしまう
受託者は、信託された財産の管理・処分などの重要な役割を担います。受託者が専門家の助けを借りずに一人でこれらの業務をこなす場合、時間的・精神的な負担が大きくなってしまうことがあります。
せっかく家族信託を始めたのに、このようなことを十分な支援もないままに一人で抱え込んでしまうと、途中でなすべきことをちゃんと最後までできなくなったり、ミスをしてしまって責任が発生してしまったりするかもしれません。
このようなリスクを避けるためには、受託者に過度な負担がかからないような工夫が大切です。たとえば、家族信託に詳しい専門家に相談して必要に応じてアドバイスを受けられるようにすることは、とり得る工夫の一つです。
受託者が財産を管理できなくなってしまう
家族信託では、基本的には当初の契約で決めた受託者が財産を管理し続けることが想定されています。しかし、どんな場合でも受託者が財産を管理し続けられるわけではなく、病気や事故、高齢化、引越しなど、さまざまな事情によって財産を管理し続けられなくなることがあります。
また、受託者が当初の想定にはない転勤などによって遠くに引っ越すこととなった場合や、自らの家庭事情の変化によって家族信託のための財産管理に割く時間が取れなくなるといったこともあります。
これらの事情により受託者として財産管理が続けられなくなると、家族信託の運用が滞り、受益者に大きな不利益が生じてしまう可能性があります。
当初の受託者が最後まで財産を管理し続けられないという事態も想定しておきましょう。
受託者になったのに施設入所契約など身上監護ができない
家族信託では、受託者が財産の管理や処分を行う権限を持ちますが、委託者本人の介護施設への入所手続や医療機関との契約など「身上監護」に関する権限はありません。
そのため、親が認知症などになった場合、たとえ信託契約で子が受託者になっていても、介護施設の入所や重要な医療上の契約などについては家族信託の受託者だからという理由では対応できません。このことを勘違いしていると、いざという時の対応に困ってしまうこともあります。
遺留分を巡るトラブルに発展してしまう
家族信託では、財産を受け継がせる先や管理方法を柔軟に決めることができますが、その内容によっては他の相続人の「遺留分」を侵害してしまうおそれがあります。
このようなトラブルを避けるためには、他の相続人の遺留分にも配慮して家族信託契約を結ぶことが重要です。また、遺留分に関する判断を正確に行うことは難しいため、弁護士のような相続の専門家にトラブルになる前からアドバイスをもらうことが大切です。
30年ルールや1年ルールで強制的に信託契約が終了してしまう
家族信託では、「信託の終了」に関するルールについても注意が必要です。
いわゆる「30年ルール」は、信託契約を締結して30年が経過した後に新たに受益権を受け継いだ受益者が死亡した時点で信託契約が終了するという信託法上のルールのことです。
また、いわゆる「1年ルール」とは、受託者と受益者とが同一の人物となり、他に受益者がいない状態となってから1年経つと信託契約が終了するという信託法上のルールのことです。
このような場合に当初の予定どおりに財産を受け継がせていくのであれば、受託者を変更するなどして受託者と受益者とが同一である状態を1年以内に解消することが必要です。
信託法上の信託終了に関するルールはしっかりと把握しておくことが重要です。
自分で信託契約書を作ろうとするもののうまく作れない
インターネット上には家族信託に関する契約書のひな形や家族信託を組むためのやり方が出回っていることがあります。これらを参考にして「専門家に任せないで自分で家族信託の契約書を作ってみよう」と考える方も少なくありません。
自分で家族信託の契約書を作ろうとするもののうまく作れず、トラブルとなってしまっては意味がありません。弁護士のような相続対策の専門家に相談した上で信託契約書を作成するようにしましょう。
信託口口座を開設するために必要な形で信託契約書を作れない
家族信託を運用するために金融機関に開設する「信託口口座」は、金融機関が定める所定の条件を満たした信託契約書が必要です。この際、金融機関によりますが、信託契約書が公正証書で作成されていなければならないことがあります。
家族信託の契約そのものは公正証書以外の方法で作っても無効となることはありません。しかし、公正証書で信託契約書を作成していなかったために信託口口座が開設できず事実上家族信託の運用ができないというトラブルが生じて後悔につながってしまうこともあります。
不動産所得の損益通算ができなくなり不利になる
不動産を信託財産として家族信託を設定した場合、信託財産である不動産から生じた損失は、信託財産としていない財産についての所得との間で「損益通算」をすることはできません。
不動産所得の損益通算が生じそうなケースでは、家族信託により損益通算ができなくならないか、それにより不利になってしまわないかを確認することが大切です。
適切な専門家に依頼できていない
家族信託は、法律に関する知識だけでなく、税務・登記も含めた複数の分野にまたがる専門的な知識が必要な難しい契約です。そのため、単に「知り合いの弁護士・司法書士だから」「家族信託に詳しいと自称しているから」という理由だけで専門家を選んでしまうと、家族信託の運用がうまくいかなかったり想定外のトラブルを招いたりするおそれがあります。
また、「相続に詳しいコンサルタント」などを名乗っている無資格者のアドバイスをうのみにしてしまうのも特に危険です。家族信託は法的な仕組みであり、必ず弁護士や司法書士などの有資格者からのアドバイスを受けることが大切です。
このように、家族信託を始めるにあたっては、安易に専門家を選ばずに適切な専門家をしっかり選んで依頼しましょう。
家族信託を成功させるための4つの対策
せっかく家族信託を活用するのであれば、ぜひ成功させたいものですよね。しかし、適切に進めなければ大きなトラブルに巻き込まれることにもなりかねません。
認知症などの病気で判断能力を失う前に信託契約を結ぶ
認知症などの病気で法的な判断能力を失ってしまうと、もはや単独では有効に契約を締結することができません。家族信託契約を締結するのであれば、認知症などの病気で判断能力を失う前に信託契約を結ぶことが重要です。
家族信託を考え始めたのであれば、できるだけ早く手続きを進めて、認知症などの病気で判断能力を失い単独で有効に契約を締結できなくなってしまうよりも前に信託契約を締結するようにしましょう。
家族や関係する親族全員で家族信託について理解を深める
家族信託は、委託者・受託者・受益者が契約の当事者として登場しますが、実際にはそれらになる者以外の者についても、十分に理解を深めておいてもらうことが重要です。
家族や関係する親族全員で家族信託について理解を深めておけば、家族信託契約を締結したことでトラブルになってしまうリスクを減らすことができます。また、家族や親族が納得して家族信託契約を締結することで、財産を遺す人の意向を最大限に実現することが可能となります。
家族信託以外の相続対策も含めて総合的に検討する
家族信託を視野に入れて検討していても、実は検討の結果家族信託以外の相続対策をしたほうがよかったと分かることもあります。家族信託について考えている場合であっても、家族信託以外の相続対策も含めて総合的に検討するようにしましょう。
また、家族信託と併せてその他の相続対策をとることで、相続対策としての効果を最大限に発揮できるということもあります。
相続対策に詳しい専門家に相談・依頼する
家族信託契約を締結するにあたっては、相続対策に詳しい専門家に相談・依頼することが重要です。
自分たちだけでは、家族信託を行おうと思っても見落としている点があるかもしれません。また、自分たちだけでは難しくてうまく家族信託を進めることができないこともあります。
家族信託を相談できる専門家には何がある?
家族信託を相談できる専門家には、主に次の2つがあります。
- 弁護士
- 司法書士
このことについてご説明します。
弁護士
弁護士は、全ての法律分野の専門家であり、相続分野についても高い専門性を有して対応してくれる専門家です。
注意しなければならないのは、相続案件を扱う全ての弁護士が家族信託に精通しているわけではないということです。相続案件を扱っていても、家族信託という仕組みについてはあまり詳しくないという弁護士もいます。
弁護士は、全ての法律事務を扱う権限を有しているので、信託契約書の作成も含めて全ての手続きを代わりに行ってくれます。
司法書士
司法書士のうち相続案件を扱っているものであれば、家族信託に詳しく、サポートをしてくれることがあります。
司法書士は登記の専門家であり、信託契約を締結する際に登記手続が必要となることがあります。このことと関連して、家族信託をサポートしてくれることがあります。
家族信託を専門家に相談・依頼するメリット
家族信託を弁護士・司法書士のような専門家に相談・依頼するメリットには、主に次のようなものがあります。
- 正確な知識に基づいて家族信託の手続きの仕方をアドバイスしてくれる
- 家族信託を含めてどのような相続対策を取るのが一番良いのかをアドバイスしてくれる
- 家族信託の手続きを依頼すれば、基本的には全て代わりに行ってくれる
家族信託を専門家に相談・依頼すれば、正確な知識に基づいて家族信託の手続きを基本的には全て代わりに進めてくれます。これにより、ご自身が負わなければならない負担を大幅に減らすことが可能となります。
正確な知識に基づいて代わりに家族信託の手続きを行ってくれることは、大きな魅力であると言えるでしょう。
家族信託を相談できる専門家を探すポイント
家族信託を相談できる専門家を探すポイントについてご紹介します。
相続対策を得意としている専門家の中から選ぶ
まずは、相続対策を得意としている専門家の中から選ぶようにしましょう。
相続対策を得意としている専門家であれば、家族信託についても一定の知識を有していることが期待できるため、そのような専門家の中から選ぶことが大切です。
相談しようとしている専門家がどれだけ相続対策について情報発信をしているかを確認する
相談しようとしている専門家がどれだけ相続対策について情報発信しているかについても確認してみましょう。
相続対策についてたくさん情報発信していれば、その分だけ相続対策の知識を豊富に持っていると推定することができます。逆に、「相続対策が得意です」と書いてあっても具体的な情報発信をあまり行っていなければ、本当に相続対策が得意なのかどうか判断することが難しいといえます。
弁護士や司法書士などの国家資格を持つ専門家に相談する
中には「相続コンサルタント」といったように民間の肩書きしか有しておらず、弁護士や司法書士などの公的な国家資格を有していない人が家族信託について情報発信をしていることがあります。
家族信託について相談するのであれば、弁護士や司法書士などの国家資格を持つ専門家に相談するようにしましょう。
相続トラブルには詳しくても家族信託の経験は浅い専門家もいるので注意
弁護士などの中には、相続トラブルには詳しくても家族信託の経験は浅いという専門家もいます。
まとめ
家族信託は、失敗につながるパターンを正確に把握して手続きに臨めば、うまく成功させられる確率を上げることは可能です。
家族信託には、典型的な失敗パターンがいくつかあるので、まずはそれを把握しましょう。
その上で、成功に向けて、適切な専門家に相談・依頼するなど正しい選択をするようにしましょう。
家族信託で後悔することのないように、失敗パターンをしっかりと把握して、成功に向けて専門家を探していきましょう。