「親が亡くなったけれど、借金をたくさん抱えていたみたいで相続したら自分が借金を返済しなければならなくなってしまう。相続放棄をすれば親の借金を返済しなくても済むと聞いたけれど……?」
親が亡くなって借金がたくさん残されていたことが分かると、どうしたらいいのか分からなくなってしまいますよね。中には、親の借金を相続したのだからしっかりと自分が返していかなければならないのだと思ってしまっている方も多いでしょう。
しかし、親の借金を相続したとしても必ずしもご自身で返済しなければならないわけではありません。親の借金を相続しても、「相続放棄」をすることで返済義務から逃れることが可能になります。
「相続放棄」とは、亡くなった親の遺産について借金も含めて全て受け継がないとする手続きのことです。
この記事では、親の借金の相続放棄について、相続放棄のメリット・デメリットや相続放棄をするにあたって知っておきたい知識などを詳しく解説しています。この記事を読むことで、親の借金を相続放棄して回避することができるようになります。
目次
相続放棄とは
「相続放棄」とは、亡くなった方(被相続人)の遺産について、預貯金や土地建物などのプラスの資産も借金などのマイナスの負債も全て受け継がないとする手続きのことです。
相続放棄は、家庭裁判所で手続きを行うことででき、相続人であれば誰でも行うことができます。
相続放棄の期限
相続放棄には、「この時までに手続きをしなければならない」という期限が定められています。相続放棄の期限は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」です。この相続放棄の期限のことを「熟慮期間」ともいいます。
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、被相続人が死亡し、自己が相続人となったことを知った時のことです。例えば、被相続人が亡くなった当日にその死亡の事実を知っていたのであれば、被相続人が亡くなった日の翌日から3か月以内に相続放棄の手続きをすればよいということになります。
例えば、被相続人が2024年1月1日に亡くなった場合、亡くなったことをその日のうちに知っていたのであれば、相続放棄の期限は3か月後の2024年4月1日ということになります。
相続放棄の期限を過ぎてしまった場合には、例外的な場合を除いて相続放棄をすることができなくなります。相続放棄ができなければ、親の借金を引き継いでご自身で返していかなければならないということになります。
このことから、相続放棄の熟慮期間がいつまでなのかということはしっかりと把握しておくことが大切です。
相続放棄した場合、故人の借金は誰が払う?
相続放棄をしたとしても、被相続人の借金がすぐに消滅してしまうわけではありません。借金は消滅せずに残り、次の順位の相続人が借金を引き継ぐことになります。借金の債権者は、次の順位の相続人に対して借金の取り立てを行うこととなります。
例えば、親が借金を残して亡くなり、相続人が長女、次女、三女の子ども3人だったとします。
長女だけが相続放棄をした場合には、借金は次女と三女が引き継ぐこととなり、それぞれ相続割合(2分の1ずつ)に応じて借金の支払い義務を負います。
長女、次女、三女の子ども3人がまとめて相続放棄をした場合には、借金は親のその親や兄弟姉妹などほかの次順位の相続人が引き継ぐこととなります。
長女、次女、三女の子ども3人がまとめて相続放棄をし、ほかに相続人が誰もいない場合には、誰も借金を引き継がないこととなります。この場合、相続財産清算人が選任されると相続財産清算人が遺産の中から借金を返済する手続きを行います。
このように、相続人の誰か1人が相続放棄をしただけであれば、ほかの相続人が借金を相続することとなり、誰が借金を返すのかが変わるだけということになってしまいます。先順位の相続人だけが相続放棄をすると次順位の相続人に借金の返済義務が移るため、あらかじめ相続放棄をすることを知らせておかなければトラブルの元となりかねません。
相続放棄をしても、相続放棄をしたことが裁判所などから次順位の相続人に自動的に通知されることはないため、自分でほかの相続人に相続放棄をしたことをしっかりと伝えておかなければなりません。
相続放棄をするときは、相続人や次順位の相続人など関係者全員でよく話し合って、一括して対応することが大切だということになります。
相続放棄のメリット
親の借金を相続放棄することにはいくつかのメリットがあります。相続放棄のメリットについてご説明します。
メリット1:被相続人の借金を返済しなくて済む
相続放棄の1番のメリットは、被相続人の借金を返済しなくて済むようになることです。親が多額の借金を残していたとしても、相続放棄をすれば親の借金を受け継いで返済する必要はありません。
相続をすると、被相続人の遺産の全てを受け継ぐことになります。相続の対象となる借金などの負債には、次のようなものがあります。
- 消費者金融やクレジットカードからの借金
- 銀行からのローン
- 滞納している税金
- 滞納している健康保険料
- 滞納している家賃
- 不法行為などによって負った損害賠償債務
- 買掛金などの事業によって負った負債
もし相続人が親の借金を相続して受け継げば、これらの借金を自分のお金から返していかなければなりません。自分のお金から借金を返していくことができなくなれば、相続をしたことが原因であなたが自己破産などの債務整理手続きをしなければならなくなるリスクもあります。
このように、親の借金を相続することは危険なことであり、相続放棄によって返済義務を免れることができれば大きなメリットとなります。
メリット2:相続に関するもめごとに関わらなくて済む
相続放棄をしないで相続人の立場に立てば、ほかの相続人と遺産分割協議をしてどのように遺産を分けるかを話し合って決めなければなりません。
特に、遺産の中に親の借金が含まれている場合には、誰が親の借金を引き取るのか、どのように遺産を分けるのかなどの話し合いが長引いてトラブルに発展していく可能性もあります。
相続放棄をしてしまえば、相続人としての立場に立つことはありません。このため、遺産分割協議に参加する必要はなくなり、親の借金を含んだ遺産の分け方をめぐるトラブルに巻き込まれるリスクはなくなります。
相続放棄のデメリット
親の借金が遺産の中にある場合に相続放棄をすることにはさまざまなメリットがありますが、一方で相続放棄にはデメリットもあります。
相続放棄のデメリットについてご説明します。
デメリット1:プラスの資産も相続できなくなる
相続放棄のデメリットの1つ目は、遺産の中にあるプラスの資産も相続できなくなるということです。
相続放棄は、遺産の全てを放棄して相続人の立場から離れる手続きです。このため、遺産の中に相続したいプラスの資産があったとしても、相続放棄をすればもはやその資産を受け継ぐことはできません。
例えば、遺産の中に実家の土地建物などどうしても受け継ぎたい資産があるという場合には、相続放棄をしてしまうとそれを受け継ぐことができなくなってしまいます。
このような場合には、どうしても受け継ぎたい資産を受け継がなくてもよいのか、本当に相続放棄をしていいのかといったことについて、よく考えるようにしましょう。
デメリット2:ほかの相続人に借金の取り立てが行く可能性がある
相続放棄をすると、相続放棄をした人は相続人の立場から離れるので、次順位の相続人に相続の権利が移ります。
次順位の相続人は元々相続をすると思っていなかったことも考えられます。次順位の相続人に十分な相談をしないまま相続放棄をしてしまうと、次順位の相続人は「急に親の借金を背負わされた」と思ってしまうかもしれません。
相続放棄をしても、相続放棄をした事実が家庭裁判所から次順位の相続人などに知らされることはありません。このため、次順位の相続人は、借金の取り立てを受けて初めて相続放棄があったことを知るということもあり得ます。こうなると、予期せぬ借金の取り立てにあった次順位の相続人との間で、親族間のトラブルになってしまう可能性もあります。
このようなデメリットを防ぐためには、相続放棄をする前にあらかじめ自分が相続放棄をする予定であることを次順位の相続人に知らせておき、親の借金の返済義務が次順位の相続人に移ってしまうことを説明しておくことが大切であるといえます。
デメリット3:いったん相続放棄したらやり直しができない
いったん相続放棄をしてしまったら、やり直しをすることはできません。後から高額の資産が見つかって相続放棄をするべきではなかったと思ったとしても、いったん相続放棄をしてしまった以上はそのことを取り消したり撤回したりすることはできません。
相続放棄は1度行うと取り返しがつかないことなので、相続放棄で失敗したと思ってしまうことがないように、相続放棄をする前にしっかりと遺産の調査をして、本当に相続放棄をしてもよいのかどうかを慎重に判断することが大切です。
デメリット4:相続放棄前の行動で相続放棄ができなくなる可能性がある
相続放棄前に一定の行動をすると、「法定単純承認」があったとみなされ、もはや相続放棄ができなくなる可能性があります。
法定単純承認は、相続人が遺産を処分したり破棄したりすることによって成立し、法定単純承認が認められると遺産を受け継いだものとみなされて相続放棄ができなくなります。
よくあるのが、被相続人の預貯金を自分のために使い込んでしまう例です。「少しくらいなら大丈夫」「後で戻すから大丈夫」などと思っていても、このような行為をしてしまえば法定単純承認が認められてしまいます。これにより、もはや相続放棄ができなくなってしまいます。
相続放棄を少しでも予定しているのであれば、被相続人の財産をうかつに処分したり使い込んだりしてしまわないように十分に注意しましょう。
相続放棄をする流れ
「親の借金がたくさんあるから相続放棄をしたい!でも相続放棄の流れがよく分からない……」
相続放棄は人生の中でなかなか行う機会がないものなので、流れがよく分からなくて困ってしまうこともあるでしょう。ここでは、相続放棄をする流れについてご紹介します。
被相続人の財産を調査する
相続放棄をするかどうかを判断する前提として、まずは被相続人の財産を十分に調査しましょう。どれだけの資産があり、それに対してどれだけの借金があるのかをしっかりと調査することが大切です。
預貯金などは通帳を見れば把握できます。また、借金については、クレジットカード会社や消費者金融などから届いた督促状などの手紙を見たり、通帳の返済記録を確認したりすることでも把握することができます。
相続放棄に必要な書類を用意する
相続放棄をすることを決めたら、相続放棄に必要な書類を用意します。
親の借金を相続放棄するために必要な書類には、次のようなものなどがあります。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票の除票
- 申述人(相続人)の戸籍謄本
- 収入印紙(800円)
- 切手
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
実際に必要になる書類は、相続放棄をする人と被相続人との関係によっても変わってきます。家庭裁判所に確認するようにしましょう。
また、相続放棄申述書は自分で作成しなければなりません。どのように作成すればいいのかよく分からないという場合には、弁護士などの専門家に相談してもよいでしょう。
家庭裁判所に必要書類を提出する
必要な書類を用意したら、家庭裁判所に書類を提出します。
提出先の家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
家庭裁判所から送られる照会書に記入・返送する
家庭裁判所に必要書類を提出し、受け付けられたら、家庭裁判所から「照会書」が送られてきます。
これは、相続放棄の意思が本当にあるかどうかを確認するための書類です。
必要事項を記入し、返送しましょう。
相続放棄申述受理通知書を受け取る
照会書を返送したら、相続放棄申述受理通知書が送られてきます。これは、相続放棄の手続きが完了したことを知らせるための書類です。
相続放棄申述受理通知書を受け取れば、相続放棄の手続きは終了となります。
相続放棄をするにあたって知っておきたい知識
相続放棄をするにあたって、知っておくとよい知識がいくつかあります。ここでは、相続放棄をするにあたって知っておきたい知識についてご紹介します。
相続放棄の期限を過ぎてから借金が発覚した場合はどうする?
相続放棄の期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内と定められています。しかし、この3か月以内という期限を超えてから親の借金が発覚することもあり得ます。
このような場合でも、裁判所に詳しく事情を説明すれば相続放棄を認めてもらえることがあります。相続放棄の期限を過ぎてから親の借金が発覚した場合でも、諦めてしまわずに相続放棄ができないか試みてみましょう。
この場合には、裁判所にうまく事情を説明しなければならないため、弁護士などの専門家に相続放棄の手続きを代行してもらうのが望ましいといえるでしょう。
被相続人の借金の連帯保証人になっていた場合にはどうなる?
被相続人の借金の連帯保証人になっているというケースがあります。このようなケースでは、たとえ親の借金の相続放棄をしたとしても、借金の返済義務から逃れることはできません。
連帯保証人として親の借金の返済義務を負っており、この連帯保証人の義務からは相続放棄をしたからといって逃れることができないからです。
連帯保証人になっている場合とそうでない場合とをしっかり区別して、自分の場合には親の借金を相続放棄することで借金の返済義務から逃れることができるのか確認するようにしましょう。
相続放棄の手続き中に借金の取り立てが来た場合にはどうすればいい?
相続放棄の手続きを進めている最中に、借金の取り立てが来ることがあるかもしれません。
このような場合には、取り立てられるままに借金を返済してしまうのではなく、「現在相続放棄の手続き中なので借金は返済できません」と事情を説明してしっかりと借金の返済を断るようにしましょう。
特に注意しなければならないのが、取り立てられるままに借金を返済してしまってはいけないということです。
相続放棄の手続き中に借金を返済してしまうと、法定単純承認が認められる可能性があります。法定単純承認が認められてしまうと、もはや相続放棄をすることはできなくなります。
しっかりと相続放棄を実現するためにも、相続放棄の手続き中に借金の取り立てが来た場合にはきっぱりと借金の返済を断るようにしましょう。
口頭で「相続を放棄する」と主張した場合は有効?
あなたがほかの相続人に対して口頭で「相続を放棄する」と伝えた場合、それだけでは相続放棄として有効にはなりません。
口頭で相続を放棄することを伝えているだけでは、有効な相続放棄とはみなされず、なお親の借金を返済する義務が残ることになります。
相続放棄をするためには、裁判所で所定の手続きを進めることが大切です。相続放棄をしようという場合には、口頭でほかの相続人に対して相続放棄をしようと考えていることを伝えるだけでなく、できるだけ早く裁判所で所定の手続きを進めるようにしましょう。
親の借金の相続放棄を弁護士に相談するメリット
親の借金を相続放棄しようという場合には、自分だけでも手続きを進められるのではないかと思われるかもしれません。
しかし、親の借金を相続放棄するには、自分だけで手続きを進めるのではなく弁護士に相続放棄について相談することがおすすめです。
親の借金の相続放棄を弁護士に相談することには、いくつかのメリットがあります。親の借金の相続放棄を弁護士に相談するメリットについてご説明します。
メリット1:相続放棄をするべきかどうか判断して教えてくれる
弁護士に親の借金の相続放棄を相談すれば、本当に相続放棄をしたほうがよいのかどうかを判断して教えてくれるというメリットがあります。
弁護士に相続手続きを依頼すれば、亡くなった親の遺産の調査も含めて行ってくれることがあります。遺産の調査の結果、意外にもプラスの財産がたくさん見つかって相続放棄をしないほうがいいという結論になることもあり得ます。
遺産の調査は、何をどこから調べたらいいのか分かりづらく、自分だけで行なうことは難しいものです。相続放棄をするべきか適切に判断するためにも、遺産の調査も含めて弁護士に依頼し、相続放棄をするべきかどうか判断して教えてもらうようにしましょう。
メリット2:相続放棄の手続きを代わりに行ってくれる
弁護士に親の借金の相続放棄を依頼すれば、相続放棄の手続きを代わりに行ってくれます。
相続放棄の手続きの中では、戸籍謄本を含めさまざまな書類を作成したり集めたりするなど、行わなければならない作業がたくさんあります。このような作業は、普段行っていない人にとっては想像以上に負担が大きいものです。
弁護士は、日常的な業務として戸籍の収集などを行っているため、正確かつ迅速に書類収集などの手続きを進めてくれます。弁護士は、このように相続放棄の手続きを代わりに行ってくれるため、あなたにとっては弁護士に相続放棄の手続きを任せておけばよく、相続放棄の負担が大幅に軽減されるというメリットがあります。
メリット3:トラブルにならないように確実に相続放棄の手続きを進めてくれる
弁護士に相続放棄の手続きを依頼すれば、ほかの相続人との間でトラブルにならないように確実に相続放棄の手続きを進めてくれます。
あなただけが相続放棄をすると、ほかの相続人が親の借金の返済義務を代わりに負うことになり、ほかの相続人との間で意思疎通を十分にできていなければそのことでトラブルになりかねません。しかし、弁護士に相続放棄の手続きを任せれば、弁護士がほかの相続人に相続放棄をした事実を通知するなどのことをしてくれるので、ほかの相続人との間で相続放棄をめぐってトラブルになりにくいといえます。
自分だけで相続放棄をして、自分でほかの相続人に「相続放棄をしたから借金の返済義務はそちらに移った」と伝えることは、想像以上に心苦しく難しいものです。弁護士という第三者に間に立ってもらい、相続放棄について伝えてもらえば、あなたの負担は少なくなります。このことも、弁護士に相続放棄の手続きを依頼するメリットの1つです。
まとめ:親の借金の相続で困ったら弁護士に相談して相続放棄をしよう
親の借金を相続して返済しなければならないとなると、とても驚き、どうしたらいいのだろうかと不安になってしまうことでしょう。自分でつくった借金でもないのに、親の借金だというだけで返済の義務を負うのはとても大変なことですよね。
しかし、相続放棄をすれば、親の借金を代わりに返済する義務はありません。相続放棄をすることは、全ての相続人に認められた権利であり、何も悪いことではありません。
相続放棄をすれば、ほかの相続人に借金の返済義務が移ってしまいますが、全ての相続人でまとめて相続放棄をすれば全員が借金の返済義務から逃れることができます。このように、上手に相続放棄をすれば、親の借金から逃れることが可能になるのです。
親の借金の相続放棄は、弁護士に依頼するのがおすすめです。弁護士に依頼すれば、相続放棄の全ての手続きを代わりに行ってくれるなど、さまざまなメリットがあります。
親の借金の相続放棄で困ったら、弁護士に依頼して相続放棄の手続きを代行してもらうようにしましょう。
もし、今回の記事で分からないことがあった場合は、「法律相談ナビの遺産相続に関する記事」も参考にしてみてください。