相続人全員の同意があれば、先行する遺産分割協議を解除して、新たに遺産分割協議をやり直すことができます。
また、先行する遺産分割協議に取消原因・無効原因が存在する場合には、協議・調停・審判・訴訟といった手続きを経ることで、遺産相続手続きのやり直しが可能です。
ただし、遺産相続手続きをやり直すときには、第三者保護への配慮、二重課税のリスク、相続人同士の関係性、各種証拠の収集可能性などの諸般の事情を総合的に考慮しなければいけません。
そこで、この記事では、遺産相続のやり直しを考えている人のために、以下の事項についてわかりやすく解説します。
- 遺産相続手続きのやり直しができる具体的場面
- 遺産相続手続きのやり直しをするときの注意点、デメリット
- 遺産相続手続きのやり直しを考えているときに弁護士に相談・依頼するメリット
目次
相続をやり直しできるケース10選
まずは、遺産相続手続きのやり直しができる10個のケースを紹介します。
- 相続人全員の合意がある場合
- 新たな相続財産が見つかった場合
- 一部の相続人が遺産分割手続きに参加をしていなかった場合
- 相続人ではない人物が遺産分割手続きに参加をしていた場合
- 相続人間で利益相反が生じているのに遺産分割手続きが進められた場合
- 遺産分割手続きに参加した相続人に意思能力がなかった場合
- 詐欺・強迫・錯誤によって遺産分割手続きが歪められていた場合
- 無効な遺言書を前提に遺産分割手続きがおこなわれた場合
- 遺産分割手続きが終了したあとに遺言書が見つかった場合
- 遺産分割手続きが詐害行為に該当すると判断されて取り消された場合
相続人全員の合意があるケース
遺産分割協議は、相続人全員の合意に基づいて成立します。
ですから、相続人全員の同意があれば、遺産分割協議のやり直しは可能です。
たとえば、先行する遺産分割協議の際には遺産相続の方法に納得をしたものの、相続人を取り巻く事情などが変わると、別の相続方法に変更したいと考えることもあるでしょう。
なお、先行する遺産分割協議に参加していた相続人のうち、遺産分割のやり直しまでに死亡した相続人が存在する場合には、死亡した人物の相続人も含めて相続人全員の同意があれば、遺産分割協議のやり直しができます。
新しい相続財産が見つかったケース
本来は、遺産分割協議を始める前に、慎重に相続財産調査をおこなわなければいけません。
しかし、実際の相続の現場では、遺産分割協議が終了したあとに、新しい相続財産が見つかることがあります。
このように、遺産分割協議終了後に新たな財産が見つかった場合には、遺産分割協議のやり直しが可能です。
新たな相続財産が見つかったときのやり直し方法として、以下の2つが挙げられます。
- 先行する遺産分割協議を有効としたうえで、新たにみつかった相続財産についてのみ、追加的に遺産分割手続きをおこなう
- すべての相続財産を対象に遺産分割協議を最初からやり直す
ほとんどのケースでは、新たに見つかった相続財産だけを対象に追加的に遺産分割協議をおこなうことで解決を目指します。
しかし、新たに見つかった相続財産が先行する遺産分割手続きにおける判断を揺るがすほどのものの場合には、例外的に、先行する遺産分割を無効としたうえで、すべての相続財産を対象に遺産分割手続きをやり直すことも可能です。たとえば、法定相続分に応じてプラスの財産を承継すると決まったのに、あとから被相続人が抱えていた高額の借金が見つかったようなケースが挙げられます。
ただし、すべての相続財産を対象に遺産分割手続きをやり直すには、相続人全員の同意が必要です。一部の相続人が先行する遺産分割のやり直しに同意をしない場合、新たに見つかった相続財産だけを対象に遺産分割をするしかありません。
相続人の一部が遺産分割手続きに参加していなかったケース
遺産分割手続きは、相続人全員の参加が不可欠です。
相続人がひとりでも欠けた状態でおこなわれた遺産分割は無効なので、遺産分割手続きをやり直す必要があります。
相続人の一部が遺産分割手続きに不参加だったと認められるケースとして、以下のものが挙げられます。
- 疎遠になっているからという理由で一部の相続人に連絡をせずに遺産分割手続きを進めた
- 相続財産を独り占めするために一部の相続人を排除して遺産分割手続きを進めた
- 遺産分割手続きが終了したあとに隠し子の存在が明らかになった など
相続人ではない人物が遺産分割手続きに参加していたケース
実務上、遺産分割手続きに相続人ではない人物が関与をするケースは少なくありません。
たとえば、被相続人の息子の嫁や、相続権が回ってきていない被相続人の兄弟姉妹が、遺産分割協議に口を挟んでくるケースが挙げられます。
相続人ではない人物が遺産分割協議に同席すること自体は禁止されていません。
しかし、過度な介入によって遺産分割協議が歪められたり法定相続人が意見表明できず意に沿わない協議内容にサインを迫られたりした場合には、遺産分割協議が無効と扱われる可能性が高いため、遺産相続手続きをやり直す必要があります。
利益相反関係にある状態で遺産分割手続きが進められたケース
法定相続人に利益相反関係がある状態で遺産分割協議が進められたケースは、遺産分割協議が無効と扱われるので注意が必要です。
たとえば、被相続人の配偶者と未成年の子どもが法定相続人になる事案では、配偶者と未成年者は遺産分割協議で自分の利益を主張し合う関係に立つため、利益相反にあると考えられます。
ここで注意を要するのが、原則として、未成年者は自分だけの判断で法律行為ができないという点です。つまり、未成年者は単独で遺産分割協議を進められないので、代理人を立てなければいけないということです。
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
引用:民法|e-Gov法令検索
本来なら、未成年者の子どもの親権を有する人物が遺産分割協議を代理しておこなうのですが、被相続人の配偶者と未成年者の子どもは利益相反関係に立つので、親である被相続人の配偶者が未成年者の子どもを代理して遺産分割協議に参加することは許されません。
したがって、遺産分割協議において親権を行使する親とその子どもの利益が相反する場合、親権を行使する者は、子どものために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求する必要があります。この手続きを欠いたままおこなわれた遺産分割協議は無効なので、遺産相続をやり直さなければいけません。
第八百二十六条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
引用:民法|e-Gov法令検索
意思能力のない人物が遺産分割手続きに関与していたケース
遺産相続手続きに参加する法定相続人には意思能力が必要です。
意思能力を欠く人物が代理人を立てずに遺産分割協議に参加していた場合には、遺産分割協議は無効と扱われるので、遺産相続手続きをやり直さなければいけません。
たとえば、重篤な認知症や精神疾患を患っていた法定相続人がひとりで遺産分割協議に参加していたケースなどが挙げられます。
遺産分割手続きに詐欺・強迫・錯誤が存在するケース
遺産相続手続きを進めている際に、詐欺・強迫・錯誤によって相続人の意思が歪められた場合には、遺産分割協議などを取り消してやり直すことができます。
第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
引用:民法|e-Gov法令検索
第1に、錯誤とは、法律行為の重大な要素に勘違いがあることです。たとえば、丁寧に相続財産調査を尽くしたにもかかわらず隠れた重大な遺産が存在したために、遺産分割協議において誤った判断をしたようなケースが挙げられます。
第2に、詐欺とは、第三者の欺罔行為によって意思表示に誤りが生じることです。たとえば、相続財産調査を担当した相続人が正確な遺産目録を提出せず、一部の重大な財産を隠されたまま遺産分割協議が進められたケースが具体例です。
第3に、強迫とは、第三者にから強迫行為を受けて誤った意思表示をすることです。たとえば、ほかの相続人から脅されて遺産分割協議書へのサインを強要されたような事案が挙げられます。
このような事情が存在するケースでは、遺産相続手続きにおいて相続人が真意に基づく適切な意見を表明できたとはいえないでしょう。
遺言書が無効と判断されたケース
被相続人が遺言書を残していた場合、遺言書の内容を前提として遺産相続手続きが進められるのが一般的です。
しかし、遺産分割手続きが終了したあとに、遺言書の内容に不自然な点があることが判明したり、遺言書が偽造・変造された疑いが生じたりすると、一部の相続人が遺言無効確認訴訟などの法的措置に踏み出すことがあります。場合によっては、法的手続きを経た結果、遺言書が無効と判断されることもあるでしょう。
すると、先行する遺産相続手続きは無効な遺言書を前提としたものであるため、遺産相続手続き自体も無効と扱われてやり直しをしなければいけません。
遺産分割手続き後に遺言書が見つかったケース
複数の遺言書が存在する場合において、前の遺言書と後の遺言書の内容が抵触するときには、後の遺言書で前の遺言書を撤回したものとみなされます。
わかりやすく言い換えると、複数の遺言書が発見されたときには、後から見つかった遺言書が有効と扱われるということです。
実務上、遺産相続手続きが終了したあとに、被相続人が残した遺言書が見つかるというケースは少なくありません。
すると、先行する遺産相続手続きは有効な遺言書の内容を踏まえたものではないため、遺産分割協議などをやり直すことができます。
詐害行為として遺産分割手続きが取り消されたケース
詐害行為取消権とは、債務者が財産減少行為・偏頗弁済などをおこなった際に、その行為を取り消して、債務者の責任財産を保全することです。債務者の悪意ある財産隠匿行為によって滅失した責任財産を回復することによって強制執行が可能な状態に戻し、債権者の有する債権を守ることを目的としています。
第四百二十四条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
3 債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
4 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。
引用:民法|e-Gov法令検索
そして、遺産分割は詐害行為取消権の対象になることがあります。
たとえば、多額の借金を抱えている法定相続人が、遺産相続によって財産を取得すると債権者に差し押さえられることを嫌って、本来相続できたはずの財産の大半をほかの相続人に譲るような遺産分割協議書にサインをしたようなケースでは、強制執行を回避する目的で不当に遺産分割手続きを進めたと考えられるので、詐害行為取消権の対象になる可能性が高いです。
そして、債権者による詐害行為取消請求が認められると、遺産相続手続きをやり直さなければいけません。
相続のやり直しをするときの注意点4つ
遺産相続手続きのやり直しをするときの注意点4つを紹介します。
- 消滅時効に注意をする
- 第三者保護が優先される可能性がある
- さまざまな手続きのやり直しを強いられる可能性がある
- 二重課税のリスクに晒される
消滅時効に注意をする
まず、遺産分割協議自体に消滅時効は存在しません。
ですから、相続人全員の合意に基づくなら、遺産分割協議はいつでもやり直すことができます。
次に、遺産分割手続きの無効主張にも期間制限は設けられていません。
したがって、相続人の一部が遺産分割協議に関与していない場合、遺産分割協議に参加していた相続人が重度の認知症を患っていた場合など、遺産分割協議の無効原因があるケースでも、遺産分割協議のやり直しはいつでも可能です。
これに対して、詐欺・強迫・錯誤などを理由に遺産分割協議を取り消すようなケースでは、消滅時効との関係で注意が必要です。
というのも、取消権は、追認できるときから5年、または、取消原因が生じたときから20年で、消滅時効にかかるからです。
第百二十六条 取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
引用:民法|e-Gov法令検索
ですから、遺産相続手続きに取消原因が存在する事案の場合、取消原因の存在を把握したら、できるだけ早いタイミングで取消権を行使して遺産分割手続きのやり直しを求めるべきでしょう。
第三者保護が優先される可能性がある
遺産相続手続きをやり直そうとしても、第三者の保護が優先される場合があります。
たとえば、遺産分割協議において、一部の相続人が被相続人が所有していた土地・建物の存在を隠したまま無断で第三者に売却したようなケースでは、ほかの相続人が取消権を行使をして遺産分割協議のやり直しをしようとしても、第三者に売却済みの土地・建物を遺産分割手続きの対象にすることはできません。
第九十五条
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
(詐欺又は強迫)
第九十六条
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
引用:民法|e-Gov法令検索
遺産相続手続きのやり直しと第三者保護のどちらが優先するかは、第三者の主観的要件や取消原因・無効原因の内容次第です。
法定相続人間の紛争だけにとどまらず、第三者も巻き込む事態になると、法律トラブルが深刻化するので、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談・依頼をしてください。
さまざまな手続のやり直しも強いられる可能性がある
遺産相続手続きをやり直した場合、先行する遺産分割協議に基づいておこなった個別の相続手続きをやり直さなければいけません。
たとえば、先行する遺産分割協議において合意に至った預貯金の相続割合とは異なる内容でやり直しをすると、余分に受け取った相続人から不足分が生じている相続人の預貯金口座に送金をする必要があります。
また、遺産分割協議のやり直しによって株式・不動産・自動車などを取得する相続人が異なるようになったときには、名義変更手続きのやり直しが必要です。
二重課税のリスクに晒される
遺産分割協議をやり直したときの二重課税リスクにも注意が必要です。
まず、先行する遺産分割協議によって相続手続きをおこなうと、相続税の負担を強いられます。
そして、遺産分割協議のやり直しによって、当初とは別の人に財産を移転させなければいけなくなると、贈与税・所得税が課税されます。また、その財産が不動産の場合には、相続登記のやり直しによって、登録免許税や不動産取得税も負担しなければいけません。
やり直しの対象になる相続財産の規模次第ですが、遺産分割協議のやり直しによって二重課税された結果、手元に残る財産が少なくなる危険性もあると理解しておきましょう。
相続のやり直しが問題になったときに弁護士に相談するメリット3つ
遺産相続のやり直しが問題になったときには、できるだけ早いタイミングで遺産相続トラブルへの対応が得意な弁護士に相談・依頼をするのがおすすめです。
さいごに、遺産相続のやり直しについて弁護士に相談・依頼するメリットを3つ紹介します。
- 遺産相続のやり直しが可能かどうかを判断してくれる
- 依頼者の代理人として法定相続人との協議を進めてくれる
- 調停・審判・訴訟といった裁判所関係の手続きにも対応してくれる
相続のやり直しが可能かを判断してくれる
遺産分割協議の取消原因・無効原因を理由にやり直しを希望する場合には、取消原因や無効原因を立証できる状況でなければいけません。
たとえば、法定相続人のひとりが認知症に患っていたことを理由に遺産分割協議の無効を主張したいなら、診断書やカルテ、認知症テストの結果などの証拠を精査したうえで、やり直しを狙えるかを検討する必要があります。
遺産相続トラブルへの対応が得意な弁護士に相談・依頼をすれば、遺産相続手続き当時の状況や各種証拠書類を確認したうえで、遺産相続手続きのやり直しができるかどうかを判断してくれるでしょう。
相続人同士の話し合いを代理してくれる
遺産相続手続きをやり直す際には、ほかの相続人との協議が必要です。
たとえば、遺産相続手続きのやり直しに反対している相続人がいるなら、その相続人を説得してやり直しについての合意を引き出さなければいけません。
また、取消原因・無効原因が存在するような事案なら、取消原因や無効原因についての意見を聴取したり、新たな遺産分割方法などについて話し合いをしたりする必要があります。
遺産相続問題に強い弁護士に依頼をすれば、依頼者の代理人として、ほかの相続人との間で冷静に建設的な話し合いを進めてくれるでしょう。
調停・審判・民事訴訟といった裁判所の手続きを代理してくれる
遺産相続手続きのやり直しについて相続人間で意見がわかれると、遺産分割調停・遺産分割審判・遺言無効確認訴訟などの裁判所手続きに紛争が発展する可能性が高いです。
しかし、これらの裁判所関係の手続きを素人だけで進めるのは簡単ではありません。
遺産相続トラブルの経験豊富な弁護士に依頼をすれば、裁判所関係の手続き進行や期日への出席、必要書類の準備などに対応してくれるでしょう。
相続のやり直しについて不安があるなら弁護士に相談しよう
遺産相続手続きをやり直す必要があるときには、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談してください。
弁護士に相談・依頼をすれば、遺産分割協議のやり直しができる状況かを適切に判断できますし、遺産相続手続きのやり直しがスムーズに進みやすくなるでしょう。
遺産相続相談弁護士ほっとラインでは、遺産相続手続きのやり直しなどの相続トラブルへの対応が得意な弁護士を多数紹介中です。弁護士に相談・依頼するタイミングが早いほど円滑な解決を目指せるので、速やかに信頼できる法律事務所までお問い合わせください。