相続人が服役中の場合はどうする?相続手続きや遺産分割協議の進め方を解説

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家族や親族が亡くなり相続が発生した際、法定相続人の中に「刑務所に服役している人」がいると、残された遺族は大きな不安や戸惑いを抱えることになります。「犯罪を犯した身内にも遺産を渡さなければならないのか」「刑務所にいる人とどうやって遺産分割の話し合いをすればいいのか」など、実務上の疑問は尽きないものです。

結論から言うと、相続人が服役中であっても、その人が持つ法律上の相続権が消滅することは絶対にありません。たとえ実刑判決を受けて収監されていても、通常の相続人とまったく同じ権利が認められるため、外にいる親族の勝手な判断で遺産分割から除外することは不可能です。もし本人を無視して勝手に進めた場合、その遺産分割協議は法律上100%無効になってしまいます。

しかし、刑務所の中ではスマートフォンやパソコンが一切使えず、郵便の往復にも看守による検閲が入るため、一般の生活とは比較にならないほど手続きに時間と手間がかかります。また、実印の押印や印鑑証明書の提出ができないため、服役中特有の「指印(拇印)」や「指印証明書」といった特殊な代替書類を揃えなければなりません。さらに、故人に借金がある場合の相続放棄には「3か月以内」という非常にシビアな期限も課せられます。

この記事では、服役中の相続人が持つ法的な権利の大前提から、収容先の調べ方、刑務所内との具体的な書類のやり取り、本人が協力を拒否した場合の対処法までを分かりやすく解説します。やってしまいがちな法的なNG行為や、弁護士へ相談すべき境界線についても網羅しました。トラブルを未然に防ぎ、複雑な相続手続きをスムーズに進めるための確実なガイドとして役立ててください。

目次

相続人が服役中でも相続権はなくならない

家族や親族の中に刑務所に服役している人がいる場合、その人が相続人になるのかどうか不安を抱く人は少なくありません。結論から言うと、相続人が服役中であっても、その人が持つ相続権が服役を理由に消滅することは絶対にありません。

通常の相続人とまったく同じように法律上の権利が認められるため、遺族の勝手な判断で相続人から除外することは不可能です。ここでは、服役中の相続人が持つ法的な権利と、遺産分割を進めるうえでの大前提について詳しく解説します。

服役中でも法定相続人としての権利を持つ

刑務所に収監されて民事上の身分が制限されている状態であっても、法定相続人としての権利は100%維持されます。なぜなら、日本の法律において、刑罰の執行と民法上の財産権の授受は完全に切り離して考えられているためです。

具体的には、故人の配偶者や子供、兄弟姉妹といった関係性であれば、現在刑務所にいるかどうかにかかわらず、法律で定められた割合(法定相続分)の財産を受け取る権利があります。「犯罪を犯して服役しているのだから遺産をもらう資格はない」といった個人の感情は、法的な相続権の有無には一切影響しません。

そのため、たとえ実刑判決を受けて刑期が何年あろうとも、その人を一人の正当な相続人としてカウントして手続きを進める必要があります。

服役しているだけでは相続欠格にならない

「刑務所にいるということは、相続人の資格を失うのではないか」と考える人も多いですが、ただ服役しているという理由だけでは「相続欠格」には該当しません。

相続欠格とは
相続欠格とは、特定の重大な違法行為を行った場合に、何の手続きもなしに相続権を強制的に剥奪される制度のことです。

民法第891条では、相続権を失う事由(相続欠格事由)を厳格に定めています。服役中の原因となった犯罪が、以下の条件に当てはまらない限り、相続権が失われることはありません。

相続欠格になるケース 相続欠格にならないケース
・故人や他の相続人を故意に殺害、または殺害しようとして刑に処せられた場合

・故人が殺害されたことを知りながら、告発や告訴をしなかった場合

・詐欺や強迫によって、故人に遺言を書かせたり撤回させたりした場合

・故人の遺産や命に関係のない犯罪(窃盗、詐欺、傷害、交通事故、薬物犯罪など)で実刑判決を受けて服役している場合

上記の通り、故人の命や遺言を不当に奪おうとした犯罪でない限り、どれだけ重い罪で服役していても相続権は守られます。まずはこの法的な事実を冷静に受け止めることが、手続きを正しく進めるための第一歩となります。

他の相続人だけで遺産分割を進めることはできない

服役中の相続人を無視して、外にいる他の相続人だけで勝手に遺産分割の話し合いを終わらせることは絶対に認められません。遺産分割協議は、法定相続人「全員」の合意が揃って初めて法的な効力を持つためです。

もし服役中の人を仲間外れにして作成した遺産分割協議書は、法律上完全に無効となります。そのような無効な書類では、銀行での預金払い戻しや、法務局での不動産の名義変更(相続登記)の手続きは一切受理されません。

どれだけ連絡が取りづらく手続きが面倒であっても、服役中の相続人を必ず話し合いの輪に入れ、全員が納得した形をとる必要がある点を確認しておきましょう。

相続人が服役中の場合の相続手続き

相続人が服役している場合であっても、通常の相続人と同様に手続きを進めなければなりません。ただし、本人が自由に動けないため、外部の遺族側が収容先のリサーチや特別な書類のやり取りを主導する必要があります。

ここでは、服役中の相続人と連絡を取り、手続きを進めるための3つの具体的なステップを詳しく解説します。

まず収容先の刑務所・拘置所を確認する

相続手続きを進めるための第一歩として、まずは服役している相続人が「全国のどこの刑務所・拘置所に収容されているか」を正確に突き止めてください。収容先が分からない限り、本人に対して遺産分割の書類を送ることも、面会に行くこともできないためです。

もし家族であっても具体的な収容先を知らされていない場合は、法務省に対して「収容事実の証明書」の発行や、弁護士を介した「弁護士会照会(23条照会)」という制度を利用して収容先を調査することができます。

収容先の主な調査方法 具体的な内容
法務省への身柄照会 親族からの申請に基づき、どこの施設に収容されているかの事実を回答してもらう方法
弁護士会照会(23条照会) 弁護士に依頼し、弁護士会を通じて法務省や刑事施設へ公式に収容先を照会してもらう方法

このように、収容先を特定するための法的なルートは用意されています。まずは本人の居場所を明確に特定し、次の連絡プロセスへ進むための土台を整えましょう。

郵送や面会によって連絡を取る

本人の収容先が判明したら、手紙(郵送)や直接の面会によって、相続が発生した事実と遺産分割の意志を伝えてください。刑務所の中ではスマートフォンやパソコンが一切使えないため、アナログな方法でしか意思疎通が図れないためです。

手紙を送る際は、故人が亡くなったこと、遺産には何があるのか、そして今後どのように分けたいと考えているのかを分かりやすく文面に記載します。また、直接刑務所の面会室に足を運び、アクリル板越しに直接事情を説明して本人の意向をその場で聞き取ることも非常に有効です。

施設内での手紙や面会には、看守による内容の検閲や回数・時間の制限といった厳格なルールが存在します。あらかじめ施設の担当部署にルールを確認したうえで、誠実に連絡を取ることが大切です。

必要書類のやり取りを行う

遺産分割の方針について本人の同意が得られたら、具体的な相続手続きに必要となる書類の郵送と回収を行います。服役中の人は実印を押したり印鑑証明書を役所で取得したりすることができないため、特有の代替書類を用意する必要があるためです。

具体的には、遺産分割協議書を刑務所へ郵送し、本人の署名と「親指の指印(拇印)」を押してもらい、さらに刑務所長からその指印が本人のものであるという「指印証明書」を発行してもらいます。

通常の相続人 服役中の相続人
遺産分割協議書への「実印」の押印 遺産分割協議書への「署名」および「指印(拇印)」の割印
役所で取得した「印鑑証明書」の提出 刑務所長が発行する「指印証明書(在監証明書)」の提出

この指印証明書が、通常の相続人でいう印鑑証明書の代わりとして法的に認められます。書類の不備で何度も郵送を繰り返すと数か月単位で時間が無駄になってしまうため、事前に証券会社や法務局にこの方法で受理されるかを念入りに確認してから送付するのが鉄則です。

相続人が服役中で協議が進まない場合の対処法

服役中の相続人とのやり取りは、一般の生活とは異なる数々の制限があるため、話が思うように進まないケースが多々あります。本人が意図的に協力を拒否したり、親族からの手紙を一切読まなかったりすることも珍しくありません。

このように、遺産分割協議が途中でストップしてしまった場合に、外にいる遺族が取るべき3つの具体的な対処法について詳しく解説します。

弁護士を通じて連絡を取る方法がある

一般の遺族だけでは面会や手紙のやり取りが拒否される場合、相続手続きを専門とする弁護士へ依頼し、代理人として動いてもらうのが極めて有効な解決策です。弁護士には、一般の親族には認められていない特別な接見(面会)の権利や、確実な連絡ルートが法的に保証されているためです。

具体的には、弁護士であれば刑務所の面会制限(回数や時間の制限)をほとんど受けることなく、本人のもとへ直接足を運ぶことができます。一般の親族からの手紙には目を通さない受刑者であっても、弁護士からの公式な書面や面会であれば、事の重大さを理解して真摯に対応するケースが非常に多いです。

連絡を試みる人 刑務所内での主な制限
一般の遺族(親族) 面会回数の制限あり・看守の立ち会いあり・手紙の検閲あり
代理人(弁護士) 面会の制限なし(原則)・看守の立ち会いなし・秘密厳守の通信が可能

このように、法的な特権を持つ弁護士の力を借りることで、閉ざされた刑務所の壁を越えてスムーズな交渉のテーブルにつくことが可能になります。

家庭裁判所の調停を利用する方法もある

手紙のやり取りだけではどうしてもお互いの意見がまとまらない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てるという選択肢があります。調停を利用すれば、裁判所という公的な機関を通じて、服役中の人とも法的に正しい手順で話し合いを進められるためです。

「刑務所にいるのにどうやって調停を行うのか」と思うかもしれませんが、裁判所は本人が出廷できない事情を考慮して手続きを組み立てます。具体的には、調停委員が直接刑務所へ赴いて本人の意見を聞き取る「出張調停」が行われたり、本人が書面で意見を提出する「書面審理」が採用されたりします。

当事者同士の直接交渉では感情論になりがちな問題も、調停委員という第三者が間に入ることで、冷静かつ迅速に解決の道へと導くことが可能になります。

連絡拒否や協力拒否が続く場合の対応

服役中の相続人が「一切の書類にサインしない」「遺産分割には応じない」と頑なに拒否し続ける場合は、調停からさらに進んだ「遺産分割審判」へと自動的に移行します。審判に移行すれば、本人の同意がなくても、裁判官が法的な義務として強制的に遺産の分け方を決定してくれるためです。

裁判官が下す「審判書」は、本人の署名や指印がなくても、それ単体で銀行預金の解約や不動産の名義変更(相続登記)を行える強力な法的効力を持っています。

手続きの段階 服役中の相続人の同意 特徴と着地点
遺産分割協議・調停 全員の同意が【必須】 1人でも拒否すれば手続きは成立しない
遺産分割審判 本人の同意は【不要】 裁判官が証拠に基づいて強制的に遺産を分配する

このように、本人がどれだけ非協力的であっても、日本の法律上、最終的には遺産分割を完了させる救済措置が用意されています。手続きが完全に泥沼化してしまった場合は、時間を無駄にしないためにも、審判を見据えて早急に法的な手続きへ切り替えるべきです。

服役中の相続人も相続放棄できる

故人に多額の借金があるなど、マイナスの財産を引き継ぎたくない場合、服役中の相続人であっても通常と同じように相続放棄をすることが可能です。刑務所にいるからといって、借金を強制的に背負わされるような理不尽な仕組みにはなっていません。

ただし、相続放棄には非常に厳格な期限が定められており、刑務所という特殊な環境下で手続きを間に合わせるためには細心の注意が必要です。ここでは、服役中の人が相続放棄を行うための実務と注意点について詳しく解説します。

相続放棄の期限は原則3か月以内

相続放棄を行うための期間は、法律によって「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」と厳格に定められています。この期間(熟慮期間)を1日でも過ぎてしまうと、借金も含めたすべての遺産を引き継ぐことを認めた(単純承認)とみなされてしまうためです。

服役中の人の場合、「故人が亡くなった事実を刑務所の中で知った日」がこの3か月のスタート地点になります。もし家族が本人の服役中に亡くなったのであれば、遺族が本人へ手紙や面会でその事実を伝えた日が起算日となるのが一般的です。

この3か月というリミットは、刑務所の中にいるからといって自動的に猶予されることは一切ありません。タイムリミットが常に後ろから迫っているという強い危機感を持つ必要があります。

刑務所内からでも相続放棄手続きは可能

本人が刑務所に収監された状態であっても、本人の意志さえあれば施設の中から直接、家庭裁判所へ相続放棄を申し立てることができます。日本の司法制度上、受刑者であっても自身の重要な権利を守るための法的手段はしっかりと保証されているためです。

具体的には、本人が刑務所の担当官(福祉担当や処遇担当など)に「相続放棄をしたい」と申し出ます。すると、必要な申述書などの書類を取り寄せてもらったり、刑務所を通じて管轄の家庭裁判所へ郵送してもらったりするサポートを受けることができます。

必要となる主な書類 主な取得・作成方法
相続放棄の申述書 裁判所のホームページ等から取り寄せ、本人が刑務所内で記入する
故人の住民票の除票 外にいる他の親族や、依頼された弁護士が役所で代理取得して郵送する
本人の戸籍謄本 外にいる他の親族や、依頼された弁護士が役所で代理取得して郵送する

上記のように、本人が中から動くだけでなく、外にいる遺族が役所で集めるべき書類(戸籍謄本など)を中へ郵送してあげるなど、内外での連携が手続きをスムーズに終わらせる鍵となります。

期限が迫っている場合は早急な対応が必要

「郵送のやり取りに時間がかかって3か月を過ぎそうだ」という場合は、自己判断で放置せず、一刻も早く弁護士に依頼するか、家庭裁判所に期限の延長を申し立てる必要があります。刑務所内の郵便は検閲などで1往復するだけでも数週間かかるケースがあり、一般の生活よりも圧倒的に時間をロスしやすいためです。

どうしても3か月以内に必要書類が揃わない場合は、事前に家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長(延長)」の申し立てを行うことで、期限を数か月伸ばしてもらえる救済措置が認められています。

ただし、この延長の申し立て自体も、当初の「3か月の期限内」に行わなければ絶対に受理されません。本人が服役中というだけで時間のハードルは倍以上に跳ね上がるため、借金があることが分かった瞬間に、即座に専門家を頼るなどの最速のアクションを起こすのが鉄則です。

【注意】服役中の相続人がいる場合に起こりやすいトラブル

服役中の相続人がいる相続手続きでは、連絡の取りづらさや手続きの煩雑さから、外にいる親族が「やってはいけない間違った判断」をしてしまうケースが後を絶ちません。これらは単に手続きが遅れるだけでなく、最悪の場合は刑事罰に問われるような重大なトラブルに発展します。

ここでは、服役中の相続人がいる場合に遺族の間で発生しやすい、4つの深刻なトラブルとリスクについて詳しく解説します。

無断で遺産分割を進めてしまうケース

「刑務所にいてどうせ話し合いに参加できないから」という理由で、本人の同意を得ずに外の親族だけで勝手に遺産分割を決めてしまうトラブルが非常に多いです。前述の通り、遺産分割協議は法定相続人の全員が合意しなければ、法律上の効力を一切持たないためです。

具体的には、本人の存在を隠して作成された遺産分割協議書は、後から100%無効になります。たとえ長年音信不通だったり、重い罪で服役していたりしても、その人を無視して財産を分けることは日本の法律上絶対に許されません。

あとから話し合いのやり直しを迫られ、親族間の亀裂が決定的なものになるため、「いなかっことにする」という進め方は絶対にやめましょう。

署名・押印を偽造してしまうケース

手続きを早く終わらせたい焦りから、服役中の相続人の名前を他の親族が勝手に署名し、実印などを偽造して書類を完成させようとするケースが散見されます。この行為は、遺産分割が無効になるだけでなく、完全に犯罪行為に該当するためです。

具体的には、他人の署名や印鑑を勝手に偽造して公的な書類を作成した場合、刑法上の「有印私文書偽造罪」や「偽造私文書行使罪」という重い罪に問われることになります。

行ってしまうNG行為 発生する法的なペナルティ
遺産分割協議書への勝手な代筆・偽造 有印私文書偽造罪・同行使罪(3か月以上5年以下の懲役)
偽造書類を使った不動産の変更登記 公正証書原本不実記載罪・同供用罪(5年以下の懲役または50万円以下の罰金)

このように、良かれと思ってやった行為が新たな犯罪を生み、自分自身が処罰の対象になってしまいます。どれだけ手間がかかろうとも、本人の直筆による署名と指印を得る正規の手順を踏まなければなりません。

後から遺産分割協議の無効を主張されるケース

本人が刑務所から出所したあとに、「そんな遺産の分け方は聞いていない」「無理やりサインさせられた」などと、遺産分割協議の無効を厳しく主張されるトラブルも頻発しています。刑務所の中という閉ざされた環境でのやり取りは、後から「意志の強要があったのではないか」と疑われやすいためです。

たとえば、手紙だけで不十分な説明しかせず、不利な条件の書類にサインを急がせた場合、出所後に弁護士を立てて話し合いのやり直し(遺産分割協議の無効請求)を求められるリスクが高まります。

このような事後トラブルを防ぐためには、財産の目録をすべてオープンにし、本人が納得している様子を面会や手紙の文面などの客観的な証拠としてしっかりと残しておくことが不可欠です。

相続登記や預金解約が進まなくなるケース

服役中の本人が手続きへの協力を頑なに拒否したり、刑務所からの書類の返送が途絶えたりすることで、銀行預金の解約や不動産の相続登記(名義変更)が完全にフリーズしてしまうケースです。金融機関や法務局は、相続人全員の有効な書類が完璧に揃わない限り、絶対に手続きを進めてくれないためです。

とくに、不動産の相続登記については、法律によって「相続を知った日から3年以内」の申請が義務化されています。服役中の人がいるからといってこの義務が免除されるわけではないため、放置するとペナルティとして過料(罰金のようなもの)を科されるリスクが生じます。

本人の拒否によって手続きが1ミリも進まなくなった場合は、ただ待つのではなく、前述した家庭裁判所への調停や審判の申し立てなど、法的手段による強制的な解決へ速やかに舵を切るべきです。

弁護士に相談すべきケース

相続人の中に服役中の人がいる場合、遺族だけで手続きを完結させようとすると、思わぬ法的な壁に突き当たることが非常に多いです。なぜなら、刑務所という特殊な環境が原因で連絡や書類の回収が遅れ、法律上の期限に間に合わなくなるリスクがあるためです。

ここでは、取り返しのつかない事態になる前に、法律のプロである弁護士に相談すべき4つの具体的なケースについて詳しく解説します。

服役中の相続人と連絡が取れない場合

本人が全国のどこの刑務所や拘置所に収容されているか分からない場合や、手紙を送っても一切の返信がない場合は、すぐに弁護士へ相談してください。一般の親族では調べられない収容先を、弁護士の職権によって合法的に突き止めることができるためです。

具体的には、弁護士に依頼することで「弁護士会照会(23条照会)」という公式な法的手続きを使い、法務省や刑事施設に対して本人の居場所を正確に照会できます。また、親族からの面会を拒絶している受刑者であっても、弁護士であれば制限を受けることなく面会(接見)して本人の真意を確かめることが可能です。

居場所が分からないからと放置すると相続手続き全体が永久にストップしてしまうため、最初のコンタクトで行き詰まったらすぐに弁護士の力を借りるべきです。

遺産分割協議がまとまらない場合

財産の分け方を巡って、服役中の本人と外にいる遺族との間で意見が少しでも食い違う場合は、速やかに弁護士を間に挟む必要があります。刑務所の外と中という物理的な距離がある中で当事者同士が直接交渉を続けようとしても、誤解や感情的な対立が深まるばかりで話がまとまらないためです。

たとえば「刑務所にいるのだから遺産は少なくて当然だ」という外の親族の主張に対し、本人が「法定相続分をきっちりもらう」と主張して譲らないケースが該当します。弁護士が第三者の立場として法的な基準を示しながら交渉を仲介することで、お互いが冷静になり、現実的な妥協点を見つけやすくなります。

相続放棄の期限が迫っている場合

故人に多額の借金があり、服役中の相続人に相続放棄をさせたいにもかかわらず、手続きが期限内に間に合いそうにない場合は一刻を争います。前述の通り、相続放棄には「3か月以内」という極めてシビアな制限時間が設定されているためです。

具体的には、刑務所の中との書類の郵送往復には想像以上の時間がかかります。弁護士に依頼すれば、本人の代理人として必要書類の収集から家庭裁判所への申し立てまでを最速で代行してもらえるほか、どうしても間に合わない場合は期限を伸ばす「期間伸長」の手続きも同時に進めてもらえます。

状況 自力で行うリスク 弁護士に依頼するメリット
借金があり、相続放棄が必要 郵送の遅れや書類不備で3か月の期限を過ぎ、借金を背負う危険がある 代理人として最速で手続きを完了させ、必要に応じて期限延長も対応する

「あと1か月しかない」という段階で相談しても、一般の手続きではタイムアウトになる可能性が高いため、期限が迫っている場合は迷わず法律事務所へ駆け込んでください。

相続人同士でトラブルになっている場合

服役中の本人だけでなく、外にいる親族の間でも「あいつのせいで手続きがこれだけ面倒になっている」「犯罪者の身内に遺産を渡したくない」などと不満が噴出し、親族トラブルに発展している場合も弁護士の出番です。親族間の感情論がもつれ合ってしまうと、正常な遺産分割協議を行うことは不可能です。

弁護士は特定の親族の感情に流されることなく、あくまで「法律上の正当なルール」に基づいて遺産分割の手続きを粛々と進めます。

また、本人がどうしても協力を拒む場合は、家庭裁判所への遺産分割調停や審判の申し立てを見据えたシミュレーションを早期に組み立てることができます。身内だけで揉めて時間と精神力を消耗する前に、法律のプロを盾にして冷静に解決へ導くのが最も賢明な選択です。

よくある質問

相続人の中に服役中の人がいる場合の手続きや注意点について、よくある質問を紹介します。

Q.服役中でも相続人になれますか?

A.はい、刑務所に服役中であっても、通常の親族とまったく同じように法定相続人になります。

日本の法律において、刑事罰の執行と民法上の財産を相続する権利は完全に切り離して考えられているためです。

故人の命や遺言を不当に奪おうとしたといった極めて限定的な犯罪(相続欠格事由)に該当しない限り、どれだけ重い罪で刑に服していても相続権が剥奪されることはありません。個人の感情で「犯罪者だから相続資格はない」と除外することは不可能です。

Q.刑務所にいる相続人の署名や押印はどうすればよいですか?

A.実印や印鑑証明書の代わりに、本人の「直筆の署名と指印(拇印)」、および刑務所長が発行する「指印証明書」を使用します。

服役中の人は役所へ行って印鑑証明書を取得したり、実印を押したりすることが物理的にできないためです。

具体的には、遺産分割協議書を刑務所へ郵送し、本人の署名と親指での指印を押してもらいます。その後、本人が施設に申請して取得した指印証明書を書類に添付して送り返してもらうことで、通常の印鑑証明書と同じ法的効力を持たせることができます。

Q.服役中の相続人がいると相続手続きはできませんか?

A.いいえ、服役中の相続人がいても、正しい手順を踏めば相続手続きを完了させることは十分に可能です。

連絡の取りづらさや書類回収の手間はかかりますが、郵送や面会、あるいは法的な救済措置を利用するルートが用意されているためです。

もし本人が書類のやり取りを拒否して話し合いが進まない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」や「遺産分割審判」を申し立てることで、本人の同意がなくても裁判官の決定によって強制的に手続きを終わらせることができます。

Q.服役中でも相続放棄はできますか?

A.はい、服役中の相続人であっても、マイナスの財産(借金)を引き継ぎたくない場合は通常通り相続放棄ができます。

受刑者であっても、自身の重要な権利を守るための法的手段は国からしっかりと保証されているためです。

ただし、相続放棄は「故人が亡くなった事実を刑務所の中で知った日から3か月以内」という厳格な期限があります。手続きに必要な本人の戸籍謄本などを外にいる親族が代わりに集めて中に郵送するなど、迅速に連携して家庭裁判所へ申し立てを行う必要があります。

Q.服役中の相続人を除いて遺産分割できますか?

A.いいえ、服役中の相続人を除外して、外にいる親族だけで勝手に遺産分割を行うことは絶対にできません。
遺産分割協議は、法定相続人の「全員」が合意して初めて法的な効力を持つと定められているためです。

進め方の種類 服役中の人の扱い 法的な有効性
外の親族だけで勝手に分割 無視して除外する 完全に【無効】(手続き不可)
正規の手続き(協議・審判など) 必ず話し合いに含める 完全に【有効】(手続き完了)

上記の通り、本人を無視して作った協議書は100%無効となり、銀行での預金解約や法務局での名義変更は一切受け付けられません。どれだけ連絡が面倒であっても、必ず本人の同意を得るか、裁判所の手続きを経る必要があります。

まとめ

相続人の中に服役中の人がいる場合、手続きの進め方には通常の相続とは異なる非常に特殊な知識と慎重さが求められます。ただ服役しているという理由だけで相続権が剥奪されることはないため、どんなに連絡が取りづらくても、必ずその人を一人の正当な相続人として話し合いの輪に入れなければなりません。

手続きを円滑に完了させるためには、まず本人が全国のどこの刑事施設に収容されているかを正確に特定し、手紙や面会を通じて誠実に遺産分割の意志を伝えることが第一歩です。合意が取れたあとは、実印や印鑑証明書の代わりとなる「署名・指印(拇印)」および「指印証明書」の回収を、刑務所側と連携しながら確実に行う必要があります。手続きを焦るあまり、本人の署名を偽造したり、無断で遺産分割を進めたりする行為は、書類が無効になるだけでなく大きな犯罪につながるため絶対に避けてください。

もし、服役中の本人が話し合いへの協力を頑なに拒絶したり、必要書類のやり取りが途絶えたりして協議が進まない場合は、ただ待つのではなく速やかに次のステップへ移りましょう。家庭裁判所へ「遺産分割調停」や「遺産分割審判」を申し立てることで、本人の同意がなくても裁判官の決定によって強制的に手続きを終わらせる救済措置が用意されています。

また、故人に多額の借金があり相続放棄をさせたいケースや、収容先が分からず最初のアプローチで行き詰まった場合は、一刻も早く弁護士などの法律のプロを頼るべきです。弁護士であれば職権を使った確実な身柄照会や、制限を受けない秘密厳守の面会(接見)が可能になり、シビアな期限内での手続きを最速で代行してもらえます。正しい法的手順を理解し、専門家の力も借りながら、故人の大切な財産をトラブルなく次世代へ引き継ぎましょう。

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