近年、資産形成の手段として爆発的に利用者が増えているNISA(少額投資非課税制度)。しかし、その口座の名義人である家族が突然亡くなったとき、残された資産がどうなるのか正しく把握している人は多くありません。「非課税のまま引き継げるのか」「手続きをしないとどうなるのか」など、多くの人が不安や疑問を抱きがちです。
結論から言うと、NISA口座で運用していた株式や投資信託は、通常の預貯金と同じようにすべて遺族が相続できます。法律上の立派な財産であるため、遺言書がない場合は相続人全員で誰が引き継ぐかを話し合う遺産分割協議の対象になります。
ただし、NISA口座の資産を相続する際には、この制度ならではの非常に特殊なルールや注意点が存在します。まず、名義人が死亡した瞬間にNISA口座としての機能は強制的に終了するため、非課税枠そのものを遺族が引き継ぐことはできません。資産はすべて相続人自身の通常の「課税口座」へと移管され、それ以降の運用益には通常の税金がかかることになります。
また、「NISAは非課税だから相続税もかからない」という誤解も非常に多いですが、これも間違いです。免除されるのは生前の運用益に対する税金だけであり、引き継ぐ資産の塊に対しては通常の財産と同じように相続税が課せられます。
この記事では、NISA口座の資産を相続する際の基本的な仕組みから、証券会社特有の手続きの流れ、税金がかかるケースまで分かりやすく解説します。後半では、手続きが長引いて期限を過ぎた場合の致命的なリスクや、弁護士・税理士などの専門家へ相談すべき境界線についても網羅しました。親族間での泥沼のトラブルを防ぎ、故人の大切な資産をスムーズに受け取るための参考にしてください。
目次
NISA口座の資産は相続できる
近年、多くの人が利用しているNISA(少額投資非課税制度)ですが、口座の名義人が亡くなった場合、その資産がどうなるのか不安に思う人は少なくありません。結論から言うと、NISA口座で運用していた資産は、通常の預貯金と同じようにすべて遺族が相続できます。
ただし、NISAならではの特殊なルールが存在するため、生前とまったく同じ状態で引き継げるわけではありません。ここでは、NISA口座の資産を相続する際の基本的な仕組みと法的な扱いについて解説します。
NISA口座の株式・投資信託も相続財産になる
NISA口座内で運用していた株式や投資信託は、すべて法律上の「相続財産」に該当します。なぜなら、これらは故人が生前に築いた立派な有価証券であり、名義人の死亡によって当然に相続人の共有財産となるためです。
具体的には、現金や預貯金、不動産などと同じように遺産分割協議の対象となります。もし遺言書がない場合は、相続人全員で誰がどのくらい引き継ぐかを話し合って決めなければなりません。
そのため、ネット証券などの口座であっても放置せず、かならず他の財産と一緒に目録に書き出して、漏れなく相続手続きを進める必要があります。
相続発生時にNISA口座は終了する
名義人が死亡した瞬間に、そのNISA口座としての機能はすべて強制的に終了します。NISA口座はあくまで名義人本人の一代限りの非課税口座として国から認められているものだからです。
具体的には、銀行や証券会社が名義人の死亡を把握した時点で、口座内の資産は非課税のまま「遺族の課税口座」へと移管される手続きが始まります。死亡したあとも故人のNISA口座のままで運用を続けたり、非課税の状態で買い増しをしたりすることは法律上絶対にできません。
したがって、亡くなった事実が発覚した時点で、口座は相続手続き専用の移管プロセスへと自動的に切り替わる点を理解しておきましょう。
非課税枠そのものは相続できない
故人が持っていたNISAの「非課税枠(投資枠)」そのものを、遺族がそのまま引き継ぐことは認められません。非課税で投資ができる権利は、口座名義人本人だけに与えられた専属的な権利であるためです。
たとえば、故人が新NISAの非課税保有限度額(1,800万円)を使い切っていなかったとしても、その残りの枠を自分のNISA口座に上乗せすることはできません。相続人が資産を受け取る際は、故人のNISA口座から、相続人自身の「課税口座(特定口座や一般口座)」へと中身を移し替えるのが基本ルールです。
売却益や配当金が非課税になるメリットは故人の死亡時点でストップするため、引き継いだ後の運用には通常の税金がかかる点をしっかりと頭に入れておきましょう。
NISAを相続した場合の取り扱い
NISA口座の資産を相続する際、どのような仕組みで遺族の手元にお金が引き継がれるのか、その具体的な実務を知っておく必要があります。なぜなら、通常の預貯金のように「現金のまま引き出す」のが基本ではなく、株や投資信託をそのまま移し替える手続きが発生するためです。
ここでは、NISA口座の資産を相続人が受け取ったあとの法的な取り扱いと、知っておくべき税金上のルールについて詳しく解説します。
相続人の証券口座へ移管される
NISA口座にある株式や投資信託を相続する場合、原則として「相続人自身の証券口座」へそのまま名義を変更して移し替える(移管する)ことになります。金融商品という性質上、故人の口座から現金の状態で直接払い戻すことは法律上認められないためです。
具体的には、故人が使っていた証券会社と同じ証券会社に、相続人自身が口座を開設しなければなりません。たとえば、故人がネット証券でNISAを運用していた場合、相続人もそのネット証券に口座を作る必要があります。別の証券会社にある自分の口座へ直接、株を移すことはできない点に注意しましょう。
手続きをスムーズに進めるためにも、まずは故人が利用していた証券会社を確認し、遺産分割協議がまとまり次第、相続人名義の口座開設を速やかに進めるのが鉄則です。
移管後は通常の課税口座で管理される
故人のNISA口座から相続人の口座へ移管された資産は、それ以降、通常の「課税口座(特定口座または一般口座)」で管理されます。前述の通り、非課税で運用できるメリットは故人の死亡時点で完全に消滅してしまうためです。
たとえば、相続人自身がNISA口座を持っていたとしても、故人の資産を自分のNISA口座に直接移し替えることは認められません。受け取った株や投資信託を今後も運用し続ける場合、それ以降に発生する売却益や配当金には、通常通り20.315%の税金が課せられることになります。
どうしても非課税で運用したい場合は、一度課税口座に資産を受け取ったあとに売却して現金化し、そのお金を使って自分自身のNISA口座で買い直すという手順を踏みましょう。
相続時点の時価が取得価額として扱われる
相続した株式や投資信託の「取得価額(購入した元本)」は、故人が亡くなった日の時価に書き換えられます。なぜなら、税法上、相続人がその資産を「死亡時の価格で新しく買い直した」とみなして計算するためです。
たとえば、故人が生前に100万円で購入した投資信託が、死亡時に150万円に値上がりしていたとします。この場合、相続人が引き継ぐ取得価額は150万円になります。仮に将来、相続人がこの投資信託を160万円で売却したとしても、税金がかかるのは値上がりした「10万円(160万ー150万)」に対してだけです。故人が値上げさせた50万円分には課税されません。
このように、相続時点の時価が新しい基準値となるため、将来売却して確定申告を行う際の手間を減らすためにも、証券会社から届く移管完了の通知書は大切に保管しておきましょう。
NISAを相続した場合に相続税がかかる
「NISAは非課税の制度だから、相続税もかからないだろう」と誤解している人は非常に多いです。しかし、結論から言うと、NISA口座で運用していた資産であっても通常の財産と同じように相続税の課税対象になります。
なぜNISAなのに相続税がかかるのか、その法的な理由と、実際に税金を計算する際の評価額の決まり方について詳しく解説します。
NISAでも相続税の対象になる
故人がNISA口座に残した株式や投資信託は、すべて遺産総額の一部としてカウントされ、相続税の課税対象になります。なぜなら、これらは故人の死亡によって遺族へ引き継がれる、客観的な価値を持った個人の財産そのものだからです。
具体的には、現金や預貯金、不動産など、他のすべての相続財産とNISAの資産を足し合わせた合計額が「基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)」を超える場合、税務署への相続税の申告と納税が必要になります。
「NISAだから税金は免除される」と思い込んで遺産総額から除外してしまうと、あとから税務調査でペナルティを科されるリスクがあるため、かならず正しい遺産として合算しなければなりません。
非課税なのは運用益に対する税金だけ
NISA口座で国から免除されているのは、あくまで「運用益(売却益や配当金)にかかる所得税や住民税」だけであり、相続税とはまったく別物です。税金の種類そのものが異なるため、NISAの非課税ルールを相続税に適用することは法律上認められません。
たとえば、生前にNISAでどれだけ利益を出しても、その利益に対する約20%の税金はかかりません。しかし、名義人が亡くなって財産が次の世代へ移転する際には、その資産の塊に対して「相続税」という別の税金が1回限りで課せられる仕組みになっています。
このように、免除される税金の種類を混同してしまうと資金計画が狂う原因になるため、「生前の運用は非課税だが、死後の引き継ぎには相続税がかかる」と明確に区別して理解しておきましょう。
相続税評価額の考え方
NISA口座にある株式や投資信託の相続税評価額は、原則として「名義人が亡くなった日の時価」を基準に計算します。なぜなら、相続税法上、財産を受け取った瞬間の価値に対して税金を課すのが基本的なルールと定められているためです。
たとえば投資信託の場合、死亡した日の「基準価額」がそのまま評価額になります。また、上場株式の場合は、死亡した日の終値だけでなく、以下の4つの価格のうち「最も低い価格」を評価額として採用できる有利な特例が認められています。
- 名義人が死亡した日の終値
- 死亡した月の毎日の終値の平均額
- 死亡した前月の毎日の終値の平均額
- 死亡した前々月の毎日の終値の平均額
このように、株価の急な変動で遺族の税負担が重くなりすぎないための救済措置が用意されています。実際の申告では少しでも税金を抑えるために、証券会社から死亡日の残高証明書を取り寄せ、4つの価格を正しく比較して評価額を算出する必要があります。
NISA相続の手続きの流れ
故人のNISA口座から資産を引き継ぐためには、通常の銀行預金とは異なる証券会社特有の手続きを正しい順序で進める必要があります。なぜなら、手続きを正しく行わないと、資産の移管が認められず、結果として相続全体のスケジュールが大幅に遅れてしまうためです。
ここでは、金融機関への最初の連絡から最終的な税金チェックまで、NISA相続をスムーズに進めるための4つの具体的な手順を分かりやすく解説します。
金融機関へ死亡の連絡を行う
NISA口座の名義人が亡くなったら、まずは故人が利用していた証券会社や銀行へ速やかに死亡の連絡を入れましょう。連絡を受け取った金融機関が口座を凍結し、相続手続き専用の案内を遺族へ送付するためです。
具体的には、ネット証券であればコールセンターや専用の相続受付フォームから、店舗のある証券会社であれば窓口へ連絡を伝えます。死亡の連絡が行われると、故人のNISA口座での新たな売買や注文はすべてストップし、出金もできなくなります。
手続きの第一歩として、まずは金融機関に死亡の事実を把握してもらい、その後に必要となる書類の一覧や「残高証明書」の請求用紙を自宅に郵送してもらう手配を整えましょう。
相続人を確認するための書類を提出する
口座の凍結が完了したら、故人と相続人の関係性を客観的に証明するための戸籍謄本などの書類を一括して金融機関へ提出します。誰が正当な権利を持つ相続人なのかを、証券会社側が法律に基づいて厳格に確認する必要があるためです。
一般的に、手続きで提出を求められる代表的な書類は以下の通りです。
- 故人の出生から死亡までが確認できる「すべての戸籍謄本(除籍謄本)」
- 相続人全員の「現在の戸籍謄本」および「印鑑証明書」
- 証券会社指定の「相続手続依頼書(同意書)」
- 遺言書、または相続人全員で署名・実印を押印した「遺産分割協議書」
これらの書類に1通でも不備があると、再提出となり手続きが何週間も後ろ倒しになってしまいます。必要書類の多くは役所で取得するまでに時間がかかるため、遺産分割の話し合いがまとまり次第、計画的に集めておく必要があります。
証券口座への移管手続きを行う
提出書類の審査が終わったら、故人のNISA口座にある株式や投資信託を、実際に引き継ぐ相続人の口座へ移し替える「移管手続き」を行います。前述の通り、金融商品は現金の状態で直接払い戻すのではなく、有価証券の名義を書き換えて引き継ぐのが大原則だからです。
このときに重要な注意点は、資産を受け取る相続人が「故人と同じ証券会社」に自分名義の口座を所有していなければならないという点です。もし相続人が別の証券会社しか使っていない場合は、移管を行う前に、まず故人と同じ証券会社で新しく口座(通常の課税口座)を開設する必要があります。
口座の準備ができたら証券会社へ移管の指示を出し、故人の口座から自分の口座へと株や投資信託の中身が問題なく移動したことを画面や通知書で確認しましょう。
相続税申告が必要か確認する
すべての資産の移管作業が完了したあとは、最後に「相続税の申告が必要かどうか」を最終確認してください。NISAの資産は非課税枠で守られていたとはいえ、相続時には他のすべての遺産と合算して税金計算をしなければならないためです。
具体的には、証券会社から取り寄せた死亡日の残高証明書をもとに、株式や投資信託の正確な「相続税評価額」を出します。そして、実家の土地や現金など他の遺産と足し合わせた合計額が、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えているかを厳しくチェックします。
基礎控除を超えている場合は、名義人が亡くなった翌日から「10か月以内」に税務署へ申告と納税を行う義務があります。期限を過ぎると延滞税などのペナルティが科されるため、移管が終わったらすぐに税金の確認へ移ることが重要です。
NISAを相続する際の注意点
NISA口座の資産を相続する手続きには、通常の銀行預金とは異なる証券会社独自のルールや注意点が存在します。これらを正しく理解しておかないと、予期せぬ税金の負担が発生したり、手続きの期限に間に合わなくなったりする致命的なリスクがあります。
ここでは、NISAの相続手続きをトラブルなく円滑に完了させるために、遺族が絶対に押さえておくべき4つの重要な注意点を詳しく解説します。
証券会社ごとに必要書類が異なる
故人のNISA口座の相続を進める際、手続きを行う証券会社や銀行ごとに細かな必要書類や指定のフォーマットが異なる点に注意が必要です。各金融機関はそれぞれの社内規定や独自のシステムに基づいて、相続人の権利を厳格に審査しているためです。
たとえば、ある大手証券会社では「遺産分割協議書」の原本提出が必須とされていても、別のネット証券では指定の「同意書(相続手続依頼書)」に全員が署名捺印すれば免除されるケースがあります。また、戸籍謄本の有効期限を「発行から6か月以内」とする会社もあれば、「3か月以内」と厳しく定めている会社もあります。
そのため、ネット上の一般的な情報だけで判断して書類を集めるのはやめましょう。まずは故人が利用していたすべての証券会社に直接問い合わせ、各社専用の案内書を取り寄せてから動くのが最も確実で無駄のない方法です。
相続人名義の証券口座が必要になる
前述の通り、故人のNISA口座にある株式や投資信託を引き継ぐためには、資産を受け取る相続人自身が「故人と同じ証券会社」に自分名義の口座を所有していなければなりません。金融商品の相続は、現金の払い戻しではなく、同一の証券会社内での「名義変更(移管)」によって行うことが法律上の大原則だからです。
具体的には、故人がネット証券でNISAを運用していた場合、相続人もそのネット証券に新しく口座(特定口座など)を開設する必要があります。「自分が普段使っている別の証券会社に直接移してほしい」と要求しても、証券会社の壁を越えて直接株を移管することは絶対にできません。
普段投資をしていない遺族にとっては口座開設の手間がかかりますが、これを行わない限り資産は一生凍結されたままになります。遺産分割の方向性が決まったら、速やかに自分名義の口座開設手続きをスタートさせましょう。
売却タイミングによって税負担が変わる場合がある
相続した株式や投資信託を売却して現金化する場合、その「売却するタイミング」によって、最終的な税金の負担額が大きく変動することがあります。引き継いだ資産は相続人自身の「課税口座」に入り、相続時点の時価からさらに値上がりした分に対して通常通り20.315%の税金が課せられるためです。
たとえば、名義人が亡くなった日の時価が150万円だった投資信託が、手続きに時間がかかっている間に値上がりし、売却時に180万円になっていたとします。この場合、値上がりした「30万円」に対して約6万円の税金がかかります。逆に、死亡時より値下がりしているタイミングで売却すれば、売却益はゼロとなるため税金は一切かかりません。
このように、移管後に市場がどう動くかで手元に残る現金が変わるため、資産をそのまま運用し続けるのか、それとも移管後すぐに売却して現金化するのかを、相場の動向を見極めながら慎重に決める必要があります。
相続税申告期限に注意する
NISAの資産を含めたすべての遺産総額が基礎控除額を超える場合は、非常に厳しい「相続税の申告・納税期限」を常に意識して行動しなければなりません。法律により、相続税の申告は「名義人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」に行わなければならないと厳格に定められているためです。
具体的には、証券口座の移管手続きや必要書類の収集、親族間での遺産分割協議のすべてを、この10か月という短い期間の中で終わらせる必要があります。もし親族間で揉めて移管手続きが長引いたり、申告を放置して期限を1日でも過ぎたりすると、本来の税金に加えて延滞税や加算税といった重いペナルティが課せられます。
NISA口座の手続きは銀行預金よりも時間がかかる傾向にあります。「10か月はあっという間に過ぎる」という危機感を持ち、四十九日を待たずにできる手続きから前倒しで進めていくことが重要です。
弁護士・税理士へ相談すべきケース
故人のNISA口座を相続する手続きは、遺族だけで進めるのが困難なケースが少なくありません。なぜなら、親族間での話し合いにズレが生じたり、専門的な税金計算や書類作成を求められたりするためです。自己判断で動いて後悔する前に、弁護士や税理士といった専門家へ相談すべき4つの具体的なケースを解説します。
相続人同士で遺産分割がまとまらない場合
誰がNISAの資産を引き継ぐかについて、相続人同士の意見が少しでも食い違う場合は、速やかに弁護士へ相談してください。親族間だけで話し合いを続けようとすると感情的な対立が激化し、手続きが完全にストップしてしまうリスクが高いためです。
たとえば「投資を行っている長男がすべて株を引き継ぐべきだ」という主張に対し、他の兄弟が「不公平だから現金を上乗せしてほしい」と反発するケースが該当します。弁護士が間に入ることで、法律に基づいた公平な遺産分割協議書の作成が可能になり、泥沼の親族トラブルを未然に防ぐことができます。
有価証券は現金のように1円単位で綺麗に分けるのが難しく揉めやすいため、意見がまとまらないと感じたら第三者である法律のプロを頼るのが賢明です。
相続税申告が必要な場合
NISAの資産を含めたすべての遺産総額が基礎控除額を超え、相続税の申告が必要になった場合は、迷わず税理士へ相談しましょう。相続税の申告は計算が非常に緻密であり、名義人が死亡した翌日から「10か月以内」という厳しい期限内に税務署へ提出しなければならないためです。
具体的には、NISA口座にある複数の投資信託や株式の評価額を正しく算出し、他の財産と合算して正確な税額を導き出す必要があります。もし自分で間違った申告をしてしまうと、あとから税務調査が入り、延滞税などの重いペナルティを科されることになります。
期限内にミスなく、かつ最適な節税特例を適用して申告を終わらせるためには、相続専門の税理士に手続きをすべて一任するのが最も安全です。
相続財産が多く評価が複雑な場合
故人が残した財産の種類が多く、その価値を測る計算(評価)が複雑な場合も、専門家のサポートが不可欠です。とくに不動産や株式などの時価で変動する資産は、素人が正確な相続税評価額を割り出すのが極めて困難であるためです。
たとえば、地方に複数の土地や古い実家を所有していたり、NISA口座以外にも未上場企業の株式や外貨建ての商品を持っていたりするケースがこれに当たります。これらを誤った方法で低く評価すると「過少申告」となり、逆に高く評価しすぎると「税金の払いすぎ」で大損してしまいます。
財産の全体像が複雑であればあるほど、法的な基準に則って正しく価値を評価できる専門家の手が必要になると理解しておきましょう。
NISA以外にも金融資産が多数ある場合
故人がNISA口座だけでなく、複数の銀行や複数の証券会社に多数の金融資産を残していた場合も、専門家へまとめて相談するのがおすすめです。各金融機関によって求められる必要書類や名義変更の手順がそれぞれ異なるため、遺族の事務負担が爆発的に増えてしまうからです。
具体的には、何社もの窓口へ何度も足を運び、その都度大量の戸籍謄本や印鑑証明書を提出する作業を繰り返すことになります。仕事や家事で忙しい遺族にとって、この手続きをすべて自力でこなすのは時間的にも精神的にも大きな負担です。
弁護士や司法書士、税理士といった専門家に窓口業務の代行を依頼すれば、遺族は書類に判を捺すだけで、すべての金融機関の相続手続きをワンストップでスムーズに終わらせることができます。
よくある質問
NISA口座の資産を相続するタイミングや具体的な取り扱いについて、よくある質問を紹介します。
Q.NISA口座はそのまま相続できますか?
A.いいえ、故人のNISA口座そのものを、そのままの状態で引き継ぐことはできません。
NISA口座は口座名義人本人だけに国から認められた、一代限りの特別な非課税口座だからです。
具体的には、証券会社が名義人の死亡を把握した時点で、そのNISA口座の機能は終了します。口座内にある株式や投資信託を相続する際は、現金を直接引き出すのではなく、相続人自身の通常の「課税口座(特定口座や一般口座)」へ名義を変更して中身を移し替える(移管する)手続きが必要となります。
Q.NISAの非課税枠も引き継げますか?
A.いいえ、故人が持っていたNISAの「非課税枠(投資枠)」を遺族がそのまま引き継ぐことは認められません。
非課税で投資ができる権利は、口座名義人本人だけに与えられた専属的な権利であるためです。
たとえば、故人が新NISAの非課税枠を使い切っていなかったとしても、その残りの枠を自分のNISA口座に上乗せすることはできません。相続人が資産を受け取ったあとは、売却益や配当金に通常の税金(20.315%)がかかる課税口座で管理される点に注意しましょう。
Q.NISAでも相続税はかかりますか?
A.はい、NISA口座で運用していた資産であっても、通常の財産と同じように相続税の課税対象になります。
NISAで免除されているのは、あくまで「運用益にかかる所得税や住民税」だけであり、相続税とはまったく別物であるためです。
具体的には、NISA口座の株式や投資信託の死亡時の価値(時価)を算出し、現金や不動産など他のすべての遺産と合算します。その合計額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、税務署への申告と納税を行う義務が生じます。
Q.相続したNISAは売却した方がよいですか?
A.今後その商品を運用する予定がない場合や、親族間で現金をきれいに分けたい場合は、移管後に速やかに売却することをおすすめします。
相続手続きが完了して自分の課税口座に移ったあとは、値動きによって元本割れをするリスクや、値上がり分に税金がかかるデメリットが発生するためです。
とくに、複数の相続人で財産を均等に分ける「換価分割」を行う場合は、一度相続人名義の口座で投資信託などを売却してすべて現金化し、その現金を分配するのが最も確実でトラブルのない方法といえます。
Q.相続放棄する場合はNISAをどう扱えば良いですか?
A.相続放棄を検討している、あるいは申し立てる予定がある場合は、故人のNISA口座には絶対に手を付けてはいけません。
口座内の株式や投資信託を勝手に売却したり、自分の口座へ移管したりする行為は、法律上で借金も含めてすべて相続する意思表示である「単純承認」とみなされるためです。
一度でも処分や移管を行ってしまうと単純承認が成立し、あとから多額の借金が発覚しても相続放棄ができなくなってしまいます。放棄の手続きが完全に完了するまでは、証券会社への連絡にとどめ、口座の中身には一切触れない状態を維持するのが鉄則です。
まとめ
NISA口座で運用されていた株式や投資信託は、通常の預貯金と同様にすべて遺族が相続することができます。しかし、非課税枠そのものは一代限りで消滅するため、相続人の課税口座へ移管されるというNISA独自の仕組みを正しく理解しておくことが重要です。
手続きをスムーズに進めるためには、何よりもまず故人が利用していた証券会社へ死亡の連絡を入れることから始めましょう。金融商品の相続は現金の払い戻しではなく、同一の証券会社内での名義変更が原則となるため、相続人自身が同じ証券会社に口座を開設する必要があります。証券会社ごとに必要書類やフォーマットが異なるため、ネットの情報だけで判断せず、まずは直接問い合わせて専用の案内書を取り寄せるのが最も確実です。
また、NISAの資産はすべて相続税の課税対象になる点も忘れてはいけません。死亡時の時価をもとに他のすべての遺産と合算し、基礎控除額を超える場合は、亡くなった翌日から「10か月以内」に税務署へ申告と納税を行う義務があります。有価証券の手続きは銀行預金よりも時間がかかる傾向にあるため、親族間での話し合いも含めて早めに行動を起こさなければ期限に間に合わなくなるリスクが高まります。
もし誰が資産を引き継ぐかで親族間の意見がまとまらない場合や、財産が多くて複雑な相続税の計算に不安がある場合は、自己判断で動く前に弁護士や税理士といった専門家へ相談してください。とくに多額の借金が隠されていて相続放棄を検討している場合は、口座の移管や売却を行った時点で放棄ができなくなるため細心の注意が必要です。
NISAは優れた投資制度ですが、死後の引き継ぎには法的な知識が求められます。正しい手順と期限を意識して、大切な家族の遺産をトラブルなく安全に次の世代へとつなぎましょう。