遺産の使い込みが発覚したときの対処法とは?証拠確保の方法や弁護士に相談・依頼するメリットを解説

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遺産の使い込みとは、一部の相続人や第三者が、ほかの相続人の同意なく被相続人の財産を自分のために使ってしまう行為のことです。

たとえば、被相続人の口座から預貯金を引き出す行為、被相続人名義の不動産や有価証券を無断で売却する行為、生命保険契約を勝手に解約して解約返戻金を着服する行為、被相続人名義の収益物件の賃料を横領する行為などが挙げられます。

一部の相続人が遺産を使い込むと、相続財産が減少して公平な遺産分割ができなくなるので、ほかの相続人との間でトラブルが生じる可能性があります。使い込みを立証するための証拠収集、遺産分割協議のやり直し、不当利得返還請求権の行使などの法的措置が必要になるでしょう。

そこで、この記事では、遺産の使い込みトラブルで困っている人のために、以下の事項についてわかりやすく解説します。

  • 遺産の使い込みが発覚したときの対処法
  • 遺産の使い込みを調べる方法
  • 遺産の使い込みを追求するときの注意点
  • 遺産の使い込みが発覚したときに弁護士に相談・依頼するメリット

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目次

遺産の使い込みが発覚したときの対処法

遺産の使い込みが発覚したときの代表的な対処法について解説します。

  • 遺産を使い込んだ相手と協議をする
  • 遺産分割調停を申し立てる
  • 遺産を使い込んだ相手に対して民事訴訟を提起する

遺産を使い込んだ相手方と協議をする

遺産の使い込みが発覚した場合には、まずは相手方と直接協議をしましょう。

たとえば、法定相続人による使い込みの場合、相手方が遺産の使い込みに関する事実関係を認めて、使い込んだ遺産相当額が返還されたなら、それを含めて遺産分割協議を進めることができます。相手方がすでに使い込んだ遺産を費消して返還が難しいケースでも、使い込み相当額はその相手方が生前贈与を受けたものとして遺産分割協議の承継割合に考慮することも可能です。

また、相続人ではない第三者による遺産使い込みが発覚したケースでは、基本的に、使い込んだ全額の返還について同意を得る必要があります。

話し合い段階で相手方が使い込みを認めれば、遺産相続手続きの早期解決を期待できます。話し合いがまとまらないと調停や民事訴訟に発展しかねないので、弁護士に交渉を代理してもらうのがおすすめです。

民法改正で遺産の使い込みに対応しやすくなった

2019年7月1日に施行された改正民法では、遺産が使い込まれた事案に対応するために、以下の規定を新設しています。

(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
第九百六条の二 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
引用:民法|e-Gov法令検索

これによって、相続開始後、遺産分割前に遺産が使い込まれたケースでは、共同相続人全員の同意があれば(使い込んだ人物が相続人の場合には、その相続人の同意は不要)、使い込まれた財産が遺産分割時に遺産として存在するとみなして、遺産分割手続きを進めることができるようになりました。

相続開始後の遺産使い込みについて、わざわざ不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求をする必要がなく、遺産分割協議のなかで調整できるので、遺産相続手続きが簡素化されるでしょう。

ただし、この規定の対象になるのは、相続開始後の使い込みについてだけです。相続開始前、つまり、被相続人が死亡する前の使い込みについては、不当利得返還請求などの対応が必要です。また、共同相続人全員の同意が得られないケースも、この民法改正の保護を受けることはできません。

遺産の使い込み分を含めて遺産分割調停をおこなう

遺産の使い込みについて相手方が認めなかったり、遺産分割協議がまとまらなかったりする場合には、遺産分割調停を申し立てる必要があります。

遺産分割調停とは、遺産分割の方法について相続人同士の話し合いがまとまらないときに利用できる家庭裁判所の法的手続きのことです。

裁判官と調停委員が、当事者双方から事情を聴取したり、資料などを提出してもらったりしたうえで、遺産分割方法の合意形成に向けたサポートをおこないます。

調停手続きで話し合いがまとまった場合には、調停調書が作成されて、合意にしたがって遺産分割がおこなわれます。これに対して、遺産分割調停が不成立に終わったときには、自動的に遺産分割審判手続きが開始されて、家庭裁判所が諸般の事情を総合的に考慮したうえで遺産分割方法について判断を下します。

相続が発生してから遺産が分割されるまでの間の遺産使い込みについては、遺産分割調停でも先ほど説明した改正民法が適用されるので、全員の同意があるときに限って、使い込まれた遺産は存在するものとして扱われます。ただし、遺産分割調停・審判では、遺産の使い込みの事実の有無について終局的な判断が下されるわけではありません。たとえば、相手方が遺産の使い込み自体を認めない場合や使い込みの内容に争いがある場合には、別途民事裁判で解決を目指す必要があります。

遺産分割調停の手続きの流れや必要書類、申し立て方法などについては、以下のリンク先を確認してください。

【参考】遺産分割調停|裁判所

民事訴訟を提起して使い込まれた遺産を取り戻す

相手方が遺産の使い込みの事実を認めない場合や、使い込まれた遺産が自主的に返還されない場合には、民事訴訟を提起して、使い込まれた遺産を取り戻す必要があります。

遺産の使い込みについて民事訴訟を提起する場合には、以下2つのどちらかの請求原因を立てるのが一般的です。

  • 不当利得返還請求権
  • 不法行為に基づく損害賠償請求権

不当利得返還請求権で使い込まれた遺産を取り戻す場合

不当利得返還請求とは、法律上正当な理由がないのに他人の財産・労務によって利益を得た受益者に対して、その利益を返還するよう求める権利のことです。

(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
引用:民法|e-Gov法令検索

不法行為責任を追求して使い込まれた遺産を取り戻す場合

不法行為に基づく損害賠償請求とは、故意または過失によって権利侵害行為に及んだ加害者に対して金銭賠償を求める権利のことです。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用:民法|e-Gov法令検索

遺産が使い込まれたかどうかを確認する方法

被相続人が死亡して遺産相続が発生したときには、適正な遺産分割を実現するために、入念な相続財産調査が必要です。

ここでは、相続財産調査の際に遺産の使い込みがあるかどうか、遺産がどの程度使い込まれたのかを調査する方法について解説します。

  • 自分の力で調べる
  • 裁判所の職権調査嘱託制度を利用する
  • 弁護士に相談・依頼する

自分で調査する

被相続人の財産が使い込まれたかを自分で調べることも可能です。

たとえば、被相続人の通帳を記帳すれば、被相続人が死亡した日以降の入出金履歴がわかります。不自然な出金履歴や他口座へ振り込まれた形跡があれば、遺産が使い込まれた疑いが生じるでしょう。

また、手元に通帳がない場合でも、金融機関に対して相続人であることを証明する書類を提出すれば、取引明細書を出してもらえます。通常、10年分の取引履歴が開示されるので、被相続人が死亡する前からのお金の流れをチェックできます。

さらに、銀行だけではなく、証券会社や保険会社でもこのような対応を期待できるので、有価証券や生命保険の解約返戻金の使い込みについても自分で調査可能です。

ただし、金融機関などに対して自分で照会をかけるには必要書類の準備などの負担を強いられます。また、遺産の使い込みが疑われる事案では、スピーディーに証拠を確保して相手方との協議などを開始しなければ財産を回収できないリスクが高まります。さらに、遺産相続実務に詳しくない素人では調査に限界があるので、遺産の全貌を把握できず、遺産の使い込みに気づくことができないケースも少なくはないでしょう。

裁判所の職権調査嘱託制度を利用する

裁判所の職権調査嘱託制度を活用すれば、遺産の使い込みに関する幅広い証拠を収集できる可能性が高いです。

職権調査嘱託制度とは、裁判所が職権で、官公署や取引所その他の団体に対して、民事事件の審理に必要な情報を調査・報告するように求める制度のことです。

(調査の嘱託)
第百八十六条 裁判所は、必要な調査を官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は学校、商工会議所、取引所その他の団体に嘱託することができる。
引用:民事訴訟法|e-Gov法令検索

遺産の使い込みについて自分で調査しようと思っても、金融機関が情報開示に応じてくれるのは、被相続人名義の口座だけです。使い込みの疑いがある人物の口座については、プライバシーの観点から開示を拒否されることが多いです。

これに対して、裁判所の職権調査嘱託制度を利用すれば、裁判所が金融機関などに対して調査・開示を求めてくれるので、遺産の使い込みが疑われる人物の預貯金口座の入出金履歴なども把握することができます

ただし、裁判所の職権調査嘱託制度を利用するには、不当利得返還請求などの民事訴訟を提起したうえで、訴訟手続きのなかで申立てをしなければいけません。民事訴訟の提起が却下されず本案審理のステップまで進むには、遺産の使い込みを示すある程度の客観的証拠を用意する必要があるので、必ず遺産相続実務に詳しい弁護士のサポートを受けましょう。

弁護士に相談・依頼する

自分で遺産の使い込みがあったかを調べるのが難しいという場合には、弁護士に相談・依頼するのがおすすめです。

たとえば、長年遺産が使い込まれており過去に遡って証拠を確保しなければいけないケースや、使い込まれた遺産の種類・金額が多く争訟が深刻化するおそれが高いケースでは、弁護士に証拠確保や相手方との交渉、調停や裁判手続きを代理してもらったほうが、遺産使い込み事件の早期解決を期待できます

遺産が使い込まれた疑いがあるときに弁護士に相談・依頼するメリットについては後述します。

遺産の使い込みを追求するときの3つの注意点

遺産の使い込みについての法的責任を追求する場合には、以下3つのポイントに注意をしてください。

  1. 遺産の使い込みを示す証拠を確保する
  2. 消滅時効が完成する前に法的責任を追求する
  3. 遺産を使い込んだ相手方に対する強制執行も視野に入れる

遺産使い込みの証拠を確保する

遺産を使い込んだ疑いがある人物に対する法的責任を追求する際には、速やかに証拠を確保する作業を開始してください。

というのも、遺産の使い込みがあった事実の立証責任はこちら側が負担しているからです。客観的証拠が揃っていない状況で相手方に何かしらのアプローチをかけてしまうと、証拠が隠滅されたり、無断で引き出された財産が費消されて回収が難しくなったりしかねません

遺産の使い込みを示す代表的な証拠として以下のものが挙げられます。

  • 被相続人の預貯金口座の取引履歴
  • 被相続人の介護認定記録、医療機関のカルテ(判断能力の有無を示す証拠として)
  • 金融機関の窓口伝票(自筆伝票か代筆されたものか、委任状の有無など)
  • 介護費用や医療費、生活費などに関する領収書・請求書・レシートなど
  • 被相続人とのメッセージの履歴 など

どのような証拠が遺産使い込みの立証に役立つかは事案によって異なります。自分だけで判断するのは難しいので、必ず弁護士のアドバイスを参考にしてください

消滅時効に注意する

遺産を使い込んだ人物からお金を取り戻すときには、消滅時効に注意が必要です。

というのも、不法行為に基づく損害賠償請求権や不当利得返還請求権には以下の消滅時効期間が定められているからです。

不法行為に基づく損害賠償請求権 ・被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年間
・不法行為のときから20年間
不当利得返還請求権 ・権利を行使することができることを知ったときから5年間
・権利を行使することができるときから10年間

被相続人が死亡してすぐに遺産の使い込みが発覚したようなケースでは、消滅時効によって各種請求権が消滅するリスクは少ないでしょう。

これに対して、過去の遺産使い込みがようやく見つかったような事例については、消滅時効の完成を猶予したり、相手方に消滅時効の援用をさせないような働きかけをしたりする必要があります。

事案によって、内容証明郵便を送付するべきか、債務の承認に該当する言質をとるべきかなど対応は異なるので、過去の遺産使い込みが発覚したときには、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談・依頼をしてください

遺産を使い込んだ相手方に資力がなければ強制執行も視野に入れる

遺産の使い込みが問題になるケースでは、相手方がすでに引き出した預貯金などをすべて費消してしまっていることが多いです。

このような事案では、使い込まれた遺産を取り戻すために、相手方の財産(所有不動産、預貯金、給与債権など)を差し押さえて回収しなければいけません

強制執行をおこなうには、判決正本や調停調書・執行受諾文言付き公正証書などの債務名義が必要です。また、相手方がどのような財産を保有しているのかを調査しなければいけません

遺産の使い込みが発覚したときに弁護士に相談・依頼するメリット5つ

遺産が使い込まれた疑いがあるときには、できるだけ早いタイミングで遺産相続トラブルへの対応が得意な弁護士に相談・依頼をしてください。

ここでは、遺産使い込みトラブルが生じたときに弁護士に相談・依頼する5つのメリットを解説します。

  1. 遺産使い込みを立証する証拠の種類や収集方法についてアドバイスをくれる
  2. 弁護士会照会制度をフル活用して証拠確保を進めてくれる
  3. 遺産使い込みの相手方との交渉を任せることができる
  4. 遺産分割調停・審判、民事訴訟などの法的手続きを任せることができる
  5. 遺産使い込み以外の遺産相続トラブルにも対応してくれる

遺産使い込みの証拠確保の方法や種類についてアドバイスをくれる

どの遺産が使い込まれたのか、誰が遺産を使い込んだのか、いつからいつまで遺産が使い込まれていたのかなど、遺産の使い込みの内容・期間・程度は事案によって異なります

弁護士に相談すれば、遺産の使い込みを立証するのに役立つ証拠の種類や確保方法についてアドバイスをしてくれます。

また、使い込まれた遺産の回収について依頼をすれば、証拠の確保から弁護士が対応してくれるので、依頼者側は時間・労力をかけずに済むでしょう。

弁護士会照会制度を活用して遺産使い込みの証拠確保を主導してくれる

遺産使い込み事件を弁護士に依頼する最大のメリットは、弁護士会照会制度を利用できる点です。

弁護士会照会制度とは、弁護士法23条の2に基づいて、弁護士会がその職権で、公務所や公使の団体に照会して必要事項の報告を求める制度のことです。

(報告の請求)
第二十三条の二 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
引用:弁護士法|e-Gov法令検索

たとえば、遺産の使い込み事件では、金融機関の取引履歴や病院のカルテ・看護記録などの証拠が必要ですが、個人でこれらの証拠を収集しようとしても、プライバシー保護の観点などの理由で拒否されるケースが少なくありません

弁護士会照会制度を活用すれば、証拠開示が拒否される可能性を大幅に軽減できますし、個人で収集するよりもスピーディーに証拠確保を実現できるでしょう。

遺産を使い込んだ相手方との交渉を任せることができる

遺産の使い込みが発覚したケースでは、遺産の返還について相手方と協議をしなければいけません。

弁護士に依頼をすれば、依頼者の代理人として直接相手方と交渉してくれるでしょう。

たとえば、法定相続分や遺留分、生前贈与の額などを考慮しながら、使い込まれた遺産の額を上手く活用して遺産分割協議を進めてくれるので、早期の紛争解決も期待しやすくなります

調停や審判、民事訴訟といった法的手続きにも対応してくれる

遺産が使い込まれたケースでは、遺産分割調停・遺産分割審判、不当利得返還請求訴訟などの裁判手続きに発展する可能性があります。

弁護士に依頼をすれば、これらの必要な資料の準備や手続き遂行を全面的に任せることができるでしょう。

遺産使い込み以外の遺産相続トラブルにも対応してくれる

遺産の使い込み以外にも、さまざまな遺産相続トラブルが発生する可能性があります。

たとえば、被相続人の遺産に不動産が含まれているケースでは、不動産を分割して承継するかどうかや、不動産の時価評価額などについての争いが想定されます。また、一部の相続人に有利な遺言書が残されていた事案では、遺言無効確認訴訟が提起されたり、ほかの相続人が遺留分侵害額請求権を公使したりすることもあります。

弁護士に相談・依頼をすれば、遺産相続をめぐるさまざまなトラブルへ対応してくれるので、早期に適切な形で遺産を承継できるでしょう。

遺産の使い込みが発覚したときにはすぐに弁護士へ相談しよう

遺産が使い込まれた形跡がある場合には、すぐに遺産相続への対応が得意な弁護士に相談・依頼をしてください。

弁護士の力を借りることで、早期の証拠確保によって使い込まれた遺産が返還されて、公平な遺産分割が実現されるでしょう。

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