遺言書を紛失した場合の対応は、遺言書を紛失したタイミングや遺言書の作成方式によって異なります。
たとえば、公正証書遺言の形式で遺言書が作成されていた場合には、公証役場に原本が保管されているので、再発行をすれば紛失によるデメリットは回避できます。
これに対して、自筆証書遺言や秘密証書遺言を紛失した場合には、原則として遺言書は無効です。例外的に、検認手続きが済んでいたり、被相続人が自筆証書遺言保管制度を利用していたりすれば、遺言書の内容を前提として遺産相続手続きを進めることができるでしょう。
そこで、この記事では、遺言書を紛失して困っている相続人・被相続人のために、以下の事項についてわかりやすく解説します。
- 相続人が公正証書遺言を紛失したときの対処法
- 相続人が自筆証書遺言を紛失したときの対処法
- 相続人が秘密証書遺言を紛失したときの対処法
- 被相続人が自分で作成した遺言書を紛失してしまったときの対処法
- 遺言書の紛失が発覚したときに弁護士に相談・依頼するメリット
目次
被相続人の公正証書遺言を紛失してしまったらどうする?
まずは、被相続人が公正証書の形式で遺言を残していたときに、公正証書遺言を紛失してしまった場合の対処法について解説します。
公正証書遺言とは
大前提として、公正証書遺言がどのようなものかを整理しましょう。
公正証書遺言とは、公証役場において、遺言者が公証人と証人2人の前で遺言内容を口頭で伝えて、公証人がそれを文書化することによって成立する遺言書のことです。
公正証書遺言を作成するには所定の手数料を負担する必要がありますが、公証人が作成手続きに関与してくれるため遺言書が無効になるリスクが極めて低く、改ざんや紛失、破棄のおそれがない点がメリットとして挙げられます。また、自筆証書遺言・秘密証書遺言とは異なり検認手続きが不要なので、スピーディーに相続手続きを進めることができます。
第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
2 前項の公正証書は、公証人法(明治四十一年法律第五十三号)の定めるところにより作成するものとする。
3 第一項第一号の証人については、公証人法第三十条に規定する証人とみなして、同法の規定(同法第三十五条第三項の規定を除く。)を適用する。
引用:民法|e-Gov法令検索
公正証書遺言の原本は公証役場に保管されているので再発行を
被相続人が公正証書の形式で遺言書を残していた場合、公正証書遺言の原本は公証役場に保管されています。
ですから、公正証書遺言の正本・謄本を紛失したとしても、公証役場で再発行手続きを申し込めば、公正証書遺言の正本・謄本を入手できます。
公正証書遺言の再発行はどこでする?
公正証書遺言の正本・謄本の再発行は、利害関係を有する者またはその代理人が、公正証書遺言の原本を保管する公証役場を訪問して取得するのが原則です。
ただし、公正証書遺言が保管されている公証役場が遠隔地で、直接の訪問が難しい場合には、最寄りの公証役場で手続きをすることによって、公正証書遺言の正本・謄本を郵送で請求することができます。
公正証書遺言を再発行するときの必要書類は?
公正証書遺言の正本・謄本を再発行するときの必要書類は以下のとおりです。
- 謄本請求書
- 遺言者が死亡した事実を証明する書類(除籍謄本など)
- 遺言者の相続人であることを証明する戸籍謄本
- 正本・謄本の請求者の本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証などの顔写真付き公的身分証明書、印鑑登録証明書など)
その他、事案によってはさらに必要書類を求められることがあるので、詳細についてはお近くの公証役場までお問い合わせください。
公正証書遺言の原本を保管する公証役場がわからないときは?
公正証書遺言の再発行をするには、公正証書の原本が保管されている公証役場での手続きが必要です。
ところが、公正証書遺言を紛失した人のなかには、公正証書の原本を保管する公証役場がどこかわからないという人も少なくはないでしょう。
このようなケースでは、公正証書遺言の検索システムを活用するのがおすすめです。日本公証人連合会は、平成元年以降に作成された公正証書遺言について、全国の遺言公正証書の情報(作成した公証役場の名前、公証人の名前、遺言者の氏名及び読み仮名、生年月日、性別、国籍、作成年月日など)を管理しており、どこの公証役場からでも無料で遺言検索できます。
秘密保持の観点から、遺言検索システムを利用できるのは、相続人などの利害関係者だけです。システム利用時には、被相続人の除籍謄本、相続人であることを示す戸籍謄本、本人確認書類などが必要になります。
被相続人が死亡してから長期間が経過しても公正証書遺言を再発行できる?
公正証書は、20年間、公証役場に保管されるのが原則です。
一 公正証書、公正証書原簿、公証人の保存する私署証書又は定款、認証簿(第三号に掲げるものを除く。)、法第六十条第一項又は第二項(これらの規定を施行法第七条第一項において準用する場合を含む。)の規定により保存すべき情報及び第六十条又は第六十七条第一項若しくは第二項の規定により保存すべき情報 二十年
二 拒絶証書謄本綴込帳、抵当証券支払拒絶証明書謄本綴込帳及び送達関係書類綴込帳 十年
三 私署証書(公証人の保存する私署証書を除く。)の認証のみにつき調製した認証簿、確定日付簿、第六十七条第三項の附属書類、計算簿 七年
2 前項の情報又は書類の保存期間は、公正証書原簿、認証簿、確定日付簿、計算簿及び送達関係書類綴込帳については、当該帳簿に最終の記載又は記録をした翌年から、拒絶証書謄本綴込帳及び抵当証券支払拒絶証明書謄本綴込帳については、当該帳簿に最終のつづり込みをした翌年から、その他の情報又は書類については、当該年度の翌年から、起算する。
3 第一項の情報又は書類は、保存期間の満了した後でも特別の事由により保存の必要があるときは、その事由のある間保存しなければならない。
引用:公証人法施行規則|e-Gov法令検索
ただし、公正証書遺言については権利関係の安定化に資するものであるため、例外的に、遺言者が死亡してから50年、公正証書遺言を作成してから140年、または、遺言者の生後170年間保管するというのが実務上の運用です。
ですから、公正証書の形式で遺言書が作成されていた場合、遺産相続関係の手続きや紛争解決の必要性が生じたときに、常に公正証書遺言を再発行できる状況にあるといえるでしょう。
被相続人の自筆証書遺言を紛失してしまったらどうする?
被相続人が自筆証書遺言を残していた場合に、この自筆証書遺言を紛失してしまったときの対処法を解説します。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、被相続人が自ら遺言内容の全文・日付・氏名を手書きし、署名の下に押印することで作成される遺言方式のことです。
平成31年1月の民法改正によって、パソコンなどで作成した財産目録を添付したり、銀行通帳のコピーや不動産登記事項証明書などを財産目録として添付したりできるようになりましたが、これらの財産目録ついても、遺言者が各ページに署名・押印をしなければいけないなど、自筆証書遺言については厳格な形式が定められています。
公正証書遺言や秘密証書遺言とは異なり、自筆証書遺言は公証役場への訪問を要さず、被相続人本人だけで作成できる点がメリットとして挙げられます。
その一方で、公証役場のような公的機関を介さずに遺言書を作成・保管しなければいけないので、紛失・偽造・破棄・隠匿などのリスクが高いです。
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
引用:民法|e-Gov法令検索
自筆証書遺言の原本を紛失すると原則無効
被相続人が残した自筆証書遺言の原本を紛失すると、遺言書は無効なものと扱われます。自筆証書遺言のコピーや写しは代用不可です。
ですから、自筆証書遺言を紛失してしまうと、遺言書は最初からなかったことになるので、遺産分割手続きにおいて遺言者の意思が反映されることはありません。
自筆証書遺言書保管制度を利用している場合
自筆証書遺言保管制度とは、自筆証書遺言を作成した本人が法務局に当該遺言書の保管を申請できる制度のことです。2020年(令和2年)7月10日から運用が開始されています。
自筆証書遺言保管制度が利用されている場合、自筆証書遺言の原本と画像データが法務局に保管されるため、自筆証書遺言を紛失するおそれはありません。また、家庭裁判所の検認手続きが不要になるので、相続手続きをスムーズに進めることができます。
ですから、被相続人が自筆証書遺言書保管制度を利用して自筆証書遺言を残したケースでは、自筆証書遺言が無効になるリスクは限りなくゼロであると理解しておきましょう。
なお、被相続人が自筆証書遺言保管制度を利用した場合には、被相続人が死亡したあと、遺言書保管所から、関係者遺言書保管通知などの方法でお知らせが来ます。通知だけでは遺言書の内容まではわからないので、できるだけ早いタイミングで最寄りの遺言書保管所に訪問をして、閲覧や遺言書情報証明書の交付を請求してください。
自筆証書遺言の検認手続きが済んでいる場合
被相続人の自宅などに保管されていた自筆証書遺言が見つかった場合、遺言書を執行するためには、家庭裁判所の検認手続きが必要です。
まず、検認手続きを経る前に自筆証書遺言を紛失してしまったケースでは、自筆証書遺言は無効と扱われます。
これに対して、検認手続きを終えたあとに自筆証書遺言を紛失してしまった場合には、検認済みの自筆証書遺言のコピーでは各種相続手続きを進めることができないので、検認期日調書謄本を取得する必要があります。
検認期日調書謄本とは、遺言書の検認時に家庭裁判所が作成する文書のことです。検認期日調書謄本には、担当裁判官・検認期日に出席した相続人の氏名・陳述された内容・検認された遺言書の外観や内容などの情報が記載されています。検認期日調書謄本があれば各種相続手続きを自筆証書遺言の内容にしたがって進めることができる可能性があります。
被相続人の秘密証書遺言を紛失してしまったらどうする?
被相続人が残した秘密証書遺言を紛失してしまった場合の対処法について解説します。
秘密証書遺言とは
秘密証書遺言とは、遺言内容を秘密にしたまま、遺言書が存在する事実だけを公証役場で証明してもらう遺言形式のことです。
遺言書の内容は公証人・証人にも見られないので秘匿性が高い点がメリットとして挙げられますが、公正証書遺言とは異なり、遺言書自体は被相続人の自宅などに保管しなければいけないので、遺言書が発見されずに遺産分割手続きが進められたり、偽造・破棄などのリスクに晒されたりします。
また、自筆証書遺言保管制度を利用していない自筆証書と同じように、秘密証書遺言を執行するには、家庭裁判所の検認手続きが必要です。
第九百七十条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2 第九百六十八条第三項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。
引用:民法|e-Gov法令検索
秘密証書遺言の原本を紛失すると原則無効
自筆証書遺言と同じように、秘密証書遺言は原本を紛失すると無効です。
ですから、遺産分割手続き前に被相続人が残した秘密証書遺言が手元からなくなってしまった場合には、最初から秘密証書遺言はなかったものとして遺産分割手続きを進める必要があります。
秘密証書遺言の検認手続きが済んでいる場合
秘密証書遺言を執行するには、家庭裁判所における検認手続きが必要です。
検認手続き終了後に秘密証書遺言を紛失してしまった場合には、検認期日調書謄本を取得して、各種相続手続きを進めましょう。
【被相続人向け】作成した遺言書を紛失してしまったら?
この項目では、これから遺言書を作成する被相続人、すでに作成した遺言書を紛失してしまった遺言者目線で、遺言書を紛失した場合の対応方法について解説します。
なお、公正証書遺言を作成したケースと、自筆証書遺言を作成して自筆証書遺言保管制度を利用したケースでは、紛失のおそれはありません。
ですから、この項目では、自筆証書遺言と秘密証書遺言を自宅で保管していたケースを念頭に置きます。
遺言書を作り直せば自分の希望を残すことができる
遺言者は、民法に規定されたルールに従う限り、いつでもその遺言の全部または一部を撤回できます。
また、作成時期が異なる複数の遺言書が存在する場合には、作成日時が新しい遺言書をもって、古い遺言書の内容が撤回されたとみなされます。
第千二十二条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
引用:民法|e-Gov法令検索
ですから、せっかく作成された遺言書を紛失したとしても、新たに民法所定の方式で遺言書を作成すれば、この新しい遺言書が有効なものとして扱われて遺言者の意思を相続人などに伝えることができます。
紛失した遺言書が原因で紛争が生じないようにする
自分で作成した遺言書を紛失した場合、新しい遺言書を作り直すことで、遺産相続に被相続人の意思を反映することができます。
ここで注意を要するのが、紛失したと思っていた遺言書が、被相続人が死亡したあとに発見されたケースです。
たとえば、古い遺言書と新しい遺言書の内容がまったく異なるものであった場合、新しい遺言書を前提とした遺産相続で不利な扱いを受ける相続人が、新しい遺言書について遺言無効確認訴訟を提起する可能性があります。また、新しく作成した遺言書が発見されず、古い遺言書のほうだけが発見されると、被相続人の意思が遺産分割手続きに反映されないリスクも生じかねません。
ですから、古い遺言書を紛失して新しい遺言書を作成した場合には、古い遺言書の存在が原因で遺産相続トラブルが生じないような配慮が必要です。たとえば、新しい遺言書内に「古い遺言書を紛失したために新しい遺言書を作成した旨」を記載したり、事前に相続人に新しい遺言書を作成するに至った経緯を説明したりすると、被相続人死亡後の紛争を回避できるでしょう。
相続人が遺言書を紛失しても問題ないような保管方法を選択する
新しい遺言書を作成する場合には、相続人が遺言書を見つけやすいような、また、相続人が遺言書を紛失しないような配慮をしておくと、遺産分割手続きがスムーズに進むでしょう。
たとえば、被相続人が遺言書を紛失したのは、自筆証書遺言・秘密証書遺言という遺言形式を選択したのが原因です。
もし、公正証書遺言の遺言方式を選択していれば、作成した遺言書がどこにいったかわからないというような事態には陥らないはずです。また、自筆証書遺言の遺言方式にこだわるとしても、自宅で保管すると遺言書が紛失するおそれがあるため、自筆証書遺言保管制度を利用するのが適切だと考えられます。
遺言書を紛失したときに弁護士に相談・依頼するメリット3つ
さいごに、遺言書を紛失したときに弁護士に相談・依頼する3つのメリットを紹介します。
- 遺言書を紛失したあとの相続手続きをサポートしてくれる
- 遺言書紛失が原因で生じるトラブルの解決を目指してくれる
- 弁護士が遺言書を保管してくれるので紛失リスクがなくなる
遺言書を紛失しても相続手続きを進めるためのサポートをしてくれる
被相続人が死亡したあと、遺言書を紛失してしまうと、相続人が遺産分割手続きをスムーズに進めることができなくなってしまいます。
遺産相続問題が得意な弁護士に相談・依頼をすれば、遺言書の形式ごとに適切な対応をして、遺産分割手続きが円滑に進むようなサポートをしてくれるでしょう。
遺言書紛失が原因で生じる法的トラブルを解決してくれる
遺言書の紛失・再作成などを繰り返したあとに相続が発生すると、複数の遺言書が原因でさまざまなトラブルが生じかねません。
たとえば、遺言書の無効確認訴訟が提起されると、最終的に遺産分割が終了するまで年単位の期間を要する可能性があります。また、遺言書の効力について相続人同士で争いが生じると、家族・親族間の人間関係が悪化するケースも想定されます。
遺産相続問題への対応が得意な弁護士に相談・依頼をすれば、遺産相続後に紛失した遺言書が原因でトラブルが生じないように、事前に相続人との間で話し合いの機会を作ったり、古い遺言書が発見されたとしてもトラブルが生じないような新しい遺言書作成のサポートをしてくれるでしょう。
弁護士に遺言書を保管してもらう
被相続人が遺言書を残していた場合には、遺言書の内容を踏まえたうえで遺産分割手続きを進めて、名義変更などの諸手続きをする必要があります。
遺産相続問題の経験豊富な弁護士に相談・依頼をすれば、遺産分割手続きが終了するまで遺言書を保管してくれるので、遺言書紛失が原因で手続きが頓挫するリスクを回避・軽減できるでしょう。
遺言書の紛失が発覚したときにはすぐに弁護士へ相談しよう
遺言書を紛失した事実が明らかになったときには、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談・依頼をしてください。
弁護士に相談・依頼をすれば、紛失した遺言書の形式ごとに適切な対応・助言をしてくれますし、遺産分割手続きが円滑に進むようなサポートもしてくれるでしょう。
遺産相続相談弁護士ほっとラインでは、遺言書紛失などの遺産相続トラブルへの対応が得意な弁護士を多数紹介中です。弁護士に相談するタイミングが早いほど円滑な解決を期待できるので、できるだけ早いタイミングで信頼できる法律事務所までお問い合わせください。