遺産分割前でも不動産売却は可能です。
ただし、その際には、相続人全員の合意や相続登記が必要です。相続人のひとりが勝手に不動産売却をすることはできません。
また、遺産分割前の不動産売却では、相続人全員で丁寧に話し合いをおこなって、合意書を作成するなどの丁寧な対応も必要です。
そこで、この記事では、遺産分割前の不動産売却を検討している人のために、以下の事項についてわかりやすく解説します。
- 遺産分割前の不動産売却の是非
- 遺産分割前に不動産売却するときの要件
- 遺産分割前の不動産売却の流れ
- 遺産分割前に不動産売却するときの注意点
- 遺産分割前の不動産売却を弁護士に相談・依頼するメリット
目次
遺産分割前の不動産売却は可能?
まずは、遺産分割前に不動産を売却するための要件について解説します。
遺産分割前でも相続人全員の同意があれば不動産売却できる
遺産分割手続きが終了する前でも、相続人全員の同意がある場合に限り、不動産の売却は可能です。
そもそも、被相続人が死亡して相続が開始すると、遺産分割手続きが終了するまでの間、相続財産は相続人全員の共有状態と扱われます。
第八百九十八条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
引用:民法|e-Gov法令検索
ですから、共同相続人全員が不動産全体の売却に合意をすれば、遺産分割手続き中でも不動産を売却して現金に換えることができます。
反対する相続人を無視して遺産分割前に不動産売却するとどうなる?
共同相続人のうち一人でも不動産全体の売却に反対する者がいるときには、不動産全体の売却は不可能です。
しかし、多くの共同相続人が売却に賛成しているような状況では、「⚪︎⚪︎の書類をこちらで用意して売却してしまえば文句は言われないだろう」というように、反対する相続人を無視して不動産の売却手続きを進めようとすることも考えられます。
しかし、反対する相続人を無視して不動産を売却すると、以下のように、さまざまな法的責任を問われる可能性があります。
- 売却に反対した相続人を説得できず、不動産を買主に引き渡せなかった場合には、違約金や損害賠償責任を問われる
- 売却手続きを進める際に、反対する相続人の印鑑などを盗み出したり書類を偽造したりすると、不法行為に基づく損害賠償請求をされる
- 印鑑の持ち出し、書類の偽造、「共同相続人全員が売却に同意している」などと嘘をついて飼い主と契約を締結、などの行為は犯罪に該当する可能性が高いので、刑事責任を問われる
したがって、反対する共同相続人を無視して強引に不動産全体を売却するのは絶対にやめてください。
所在不明の相続人を無視して遺産分割前に不動産を売却できる?
所在不明の共同相続人がいるからといって、遺産分割前にこの行方不明者を無視して不動産全体を売却することはできません。
所在不明だったとしても相続人である事実に変わりはないので、不動産全体を売却するには、この人物の同意も必要です。
しかし、どれだけ相続人調査を入念におこなっても、相続人の居場所や連絡先がわからないというケースも少なくありません。
このようなケースでは、不在者財産管理人を選任したり、失踪宣告制度を利用したりすることで、不動産の売却や遺産分割手続きを進めていきましょう。
遺産分割前でも自分の共有持分だけなら単独で売却できる
遺産分割前でも、自分の共有持分だけなら、ほかの共同相続人の同意なしでも売却できます。
一部の共同相続人が不動産全体の売却に反対しても、共有持分を売却することで、少なくとも不動産をめぐるトラブルからは解放されます。
ただし、不動産の共有持分だけを購入しようという買主を一般の不動産中古市場から見つけるのは簡単ではありません。
となると、訳あり物件買取業者に依頼をせざるを得ず、低廉な価格で引き取られてしまう可能性が高いでしょう。
遺産分割前に不動産を売却するには相続登記が必要
遺産分割前に不動産を売却する際には、売却手続きを進める前に、相続登記手続きが不可欠です。
というのも、遺産分割手続きが終了する前は、被相続人が不動産の登記名義人のままだからです。
売買契約の当事者は法定相続人なのに、登記簿上の所有者が被相続人のままでは、契約当事者が一致しないという理由で売却手続きを進めることができません。
ですから、遺産分割前に不動産を売却する際には、相続についての相続登記と売買契約時の所有権移転登記の2回の登記手続きが必要になります。
相続登記前に不動産の売買契約は可能?
売買契約は当事者が自由に契約条件を設定できるので、相続登記前に不動産の売買契約を締結することも理屈上は可能です。
たとえば、「遺産分割協議の成立と相続登記の完了を解除条件に売買契約を締結する」「『売主側の責任・負担で、売買代金の決済日までに相続登記を完了する』という特約条項(白紙解除条項)を締結する」などの方法が考えられます。
しかし、実際には、このような契約を締結するメリットが買主側には存在しないため、相続登記前に不動産の売買契約を締結するのは難しいでしょう。
遺産分割前に不動産全体を売却するときの流れ
遺産分割前の不動産売却の一般的な流れについて解説します。
- 相続人調査をおこなう
- 相続財産調査をおこなう
- 不動産売却について相続人全員の同意を得る
- 相続登記手続きをおこなう
- 不動産の売却手続きをおこなう
- 売却して得た現金を相続人同士で分配する
- 納税処理をおこなう
相続人調査をおこなう
不動産売却をするかどうかにかかわらず、被相続人が死亡した場合には、最優先で相続人調査をおこないます。
というのも、法定相続人全員が明らかにならなければ、不動産売却どころか、遺産分割協議自体を進めることができないからです。
民法上、法定相続人については以下のルールが定められています。
- 被相続人の配偶者:常に相続人になる
- 第1順位:被相続人の子ども(子どもがすでに死亡している場合には、直系卑属が代襲相続)
- 第2順位:被相続人の直系尊属
- 第3順位:被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹がすでに死亡している場合には、直系卑属が代襲相続)
家族構成がシンプルな場合には、相続人調査に時間を要することはないでしょう。
これに対して、被相続人が離婚・再婚を繰り返している場合などでは、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を遡ったり住民票を調査したりして、相続人の有無や連絡先を確認する必要があります。
相続財産調査をおこなう
遺産分割手続きを進めるには、相続財産の内容を確定させなければいけません。
不動産だけではなく、預貯金、株式、現金、貴金属類、借金など、被相続人が保有していた財産はすべて丁寧に調査をしてください。
特に、被相続人がどのような不動産を所有していたかについては、行政などから一覧が一覧が通知されることはありません。
被相続人の自宅に登記事項証明書や固定資産税納税通知書が残っていないか探したり、市区町村が保管している名寄帳を確認したりして、被相続人名義の不動産を洗い出しましょう。
不動産売却について相続人全員の同意を得る
相続人全員で話し合いをおこない、不動産売却についての合意形成を目指します。
不動産のような大切な資産の売却については、相続人間で意見がまとまらないケースも少なくありません。
相続人同士の直接的な協議だけでは合意に至りにくい場合には、弁護士に介入してもらって、不動産を所有しつづけるデメリット(管理コストや資産価値の低下、税負担など)について丁寧に説明してもらうとよいでしょう。
相続登記手続きをおこなう
不動産売却について合意形成に至った場合には、相続登記をおこないます。
相続登記の種類は以下2種類です。
- 単独名義での相続登記:代表者をひとり選出して、代表者名義で不動産全体の相続登記をする方法
- 共有名義での相続登記:各相続人が自分の共有持分についてそれぞれ相続登記をする方法
代表者の単独名義で相続登記をすれば、代表者だけで売却手続きを進めることができます。相続人全員から委任状をもらったり、相続人全員が契約書に署名・押印をしたりする必要がなくなるので、不動産売却がスムーズに進むでしょう。
相続人全員が共有名義で相続登記をすれば、わざわざ代表者を決める必要はなくなります。ただし、不動産の売却手続きに共有名義人全員が参加しなければいけなくなるので、意思確認や書類の準備などの負担を強いられます。
不動産の売却手続きをおこなう
相続人全員の同意、相続登記の準備が終わったら、不動産の売却活動をおこないます。
不動産を売却する際には、不動産仲介業者に依頼するのが一般的です。
不動産仲介業者は、一般の不動産中古市場から、不動産の購入希望者を募ってくれます。
不動産仲介業者によって抱えている顧客層や宣伝ルートなどが異なるので、好条件での売却を目指すなら、複数の不動産仲介業者に相談するのがおすすめです。
不動産の売却を仲介業者に依頼したときの一般的な流れは以下のとおりです。
- 不動産仲介業者に相談する
- 不動産仲介業者が物件調査をおこなう
- 不動産仲介業者との間で媒介契約を締結する(一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約のいずれか)
- 不動産仲介業者が物件を売り出す(販促戦略の決定、内覧対応など)
- 購入希望者との間で売却条件などについて交渉する
- 買主との間で売買契約を締結する
- 所有権移転登記、物件の引き渡し、決済をおこなう
先ほど紹介したように、代表者を決めて単独で相続登記をしている場合には、代表者が不動産仲介業者・買主とやりとりをするだけで売却手続きを進めることができます。
これに対して、共有名義で相続登記をした場合には、法定相続人全員で売却手続きに対応しなければいけません。
不動産の売却手続きをスムーズに進めたいなら、早々に代表者を決めて単独登記で相続登記をしてしまったほうが合理的でしょう。
売却して得た現金を分配する
不動産を売却して得られた現金を相続人で分配します。
遺産分割前の不動産は相続人全員の共有状態であり、当然に相続財産に含まれます。
これに対して、遺産分割前に不動産を売却した場合、得られた現金は遺産から外れて、各相続人がそれぞれ持分に応じて代金債権を取得すると解するのが判例です。
引用:最高裁判決昭和52年9月19日|裁判所HP
ただし、実務上は、遺産分割協議が複雑化するのを防ぐために、売買代金を遺産に含めたうえで換価分割をするのが一般的です。
納税処理をおこなう
不動産売却によって譲渡所得を得た場合には、譲渡所得税の申告・納付が必要です。
不動産を買主に引き渡した日が属する年の翌年の2月16日〜3月15日までの間に所轄の税務署で申告・納付をしなければ、延滞税などのペナルティを課されます。
不動産売却時の譲渡所得は【収入金額 – (取得費 + 譲渡費用) – 特別控除額】の計算式で算出します。
また、譲渡所得税の税率は、被相続人が不動産を取得した日から譲渡した年の1月1日までの期間が5年を超えるかどうかで、以下のように異なります。
- 短期譲渡所得(5年以下):所得税30%、住民税9%、復興特別所得税:0.63%
- 長期譲渡所得(5年超):所得税15%、住民税5%、復興特別所得税:0.315%
また、被相続人の不動産を売却したときには、「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」などの税制上の優遇措置の対象になる可能性があります。
不動産売却に関する税務処理は複雑なので、可能な限り弁護士や税理士などの専門家に相談をしてください。
参照:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁
参照:No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例|国税庁
遺産分割前に不動産売却をするときの注意点3つ
遺産分割前に不動産売却をするときの3つの注意点を紹介します。
- 売却後に不動産について記載した遺言書が見つかったときに受遺者・第三者との間でトラブルが生じる
- 相続登記の単独名義は売却手続き上は便利だが特有のデメリットが存在する
- 不動産売却をする前に相続人全員の合意を書面化する
不動産売却後に遺言書が見つかったら第三者や受遺者との関係でトラブルが生じる
遺産分割前に不動産売却をしたあと、不動産を特定の相続人や第三者に遺贈する旨の遺言書が見つかった場合には、遺言書の内容を実現できない点に注意が必要です。
本来、遺言書がある場合、遺言は被相続人が死亡したときからその効力を発します。
この理屈によって、特定の相続人または第三者へ不動産を贈与する旨の遺言書がある場合、被相続人が死亡した時点で、不動産の所有権は被相続人から特定の相続人または第三者に移転します。
ところが、ここで問題になっているケースでは、遺言書が見つかる前(遺産分割前)に、相続人の判断で不動産がすでに売却されています。
つまり、受遺者(遺言書によって不動産の所有権を取得した人)と買主(売買契約によって不動産の所有権を取得した人)が対抗関係に立つということです。
この点について、最高裁判所は、以下のように「不動産登記の対抗要件を備えたほうを優先する」という判断を下しています。
ないと解すべきところ(当裁判所昭和三一年(オ)一〇二二号、同三三年一〇月一四日第三小法廷判決、集一二巻一四号三一一一頁参照)、遺贈は遺言によつて受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示にほかならず、遺言者の死亡を不確定期限とするものではあるが、意思表示によつて物権変動の効果を生ずる点においては贈与と異なるところはないのであるから、遺贈が効力を生じた場合においても、遺贈を原因とする所有権移転登記のなされない間は、完全に排他的な権利変動を生じないものと解すべきである。そして、民法一七七条が広く物権の得喪変更について登記をもつて対抗要件としているところから見れば、遺贈をもつてその例外とする理由はないから、遺贈の場合においても不動産の二重譲渡等における場合と同様、登記をもつて物権変動の対抗要件とするものと解すべきである。
引用:最高裁判所判決昭和39年3月6日|裁判所
ですから、遺産分割前に不動産売却をして買主が所有権移転登記を備えると、故人が不動産を譲りたかった人が不動産を取得できなくなってしまうと考えられます。
「故人の意思を尊重したい」「不動産の行末について法的トラブルが生じるのを避けたい」という場合には、不動産を売却する前に、遺言書が残されていないかどうかをしっかりと調査するべきでしょう。
単独名義で相続登記をしたとき特有のトラブルに注意が必要
遺産分割前の不動産売却手続きに向けた相続登記は代表者による単独名義にしたほうがスムーズですが、単独名義で相続登記をする際のデメリットに注意が必要です。
代表的なデメリットとして、以下のものが挙げられます。
- 代表者だけが売却手続き時に発生する手数料の支払い義務や登録免許税などの納税義務の名宛人になる
- 手数料や納税の負担割合を決めるときや求償の際に相続人間でトラブルが生じる可能性がある
- 登記識別情報は代表者だけに発行されて、ほかの相続人には発行されない
- 代表者の単独名義で相続登記をしたあとに、ほかの相続人が相続放棄をするなどの事情変更が生じたら、更正登記の申請の手間がかかる など
したがって、遺産分割前に不動産売却をするときには、手数料負担などの細かい諸条件に至るまで、相続人全員の合意形成が必要だと考えられます。
不動産売却をする前に相続人全員で合意書を作成する
遺産分割協議前に不動産売却をするときには、必ず相続人全員で合意形成に至った内容を文書化してください。
というのも、不動産売却に関する諸条件などについての合意が文書化されていなければ、あとからさまざまな紛争が生じるリスクに晒されるからです。
たとえば、相続登記をする際にはさまざまなコスト負担を強いられますが、事前に誰がどのような割合でコスト負担をするのかについて取り決めをしておかなければ、いざ売却手続きを進める際に費用を用意できず、結果として不動産売却に失敗しかねません。
また、単独名義で相続登記をした場合には代表者が不動産売却に向けた交渉などをすべて担当しますが、売買代金を受け取ったあとの精算方法などについても事前に取り決めをしておく必要があります。
遺産分割前の不動産売却を検討しているときに弁護士へ相談するメリット3つ
遺産分割前の不動産売却を検討しているときには、弁護士に相談・依頼をしてください。
遺産相続トラブルへの対応が得意な弁護士の力を借りることで、以下3つのメリットを得られるからです。
- 相続人全員の協議をサポートしてくれる
- 不動産の売却手続きをサポートしてくれる
- 第三者との争訟や遺言書の有効性などの派生的なトラブルにも対応してくれる
相続人全員の協議をサポートしてくれる
相続が発生すると、不動産売却をするかどうかだけではなく、遺産分割の方法や取得割合などのさまざまな事項について、相続人同士で丁寧に話し合いを進めなければいけません。
しかし、実際の遺産相続の現場では、もともと関係性が悪かったり、利害関係が対立したりすることで、相続人同士で冷静に協議を進めることができないケースが多いです。
遺産相続実務に詳しい弁護士に相談・依頼をすれば、遺産分割手続きや不動産売却がスムーズに進むように、相続人同士の話し合いをサポートしたり、代理人として遺産分割協議などに参加してくれたりするでしょう。
不動産の売却手続きをサポートしてくれる
不動産の売却手続きを進める際には、戸籍謄本の取得や不動産仲介業者とのやりとりなど、さまざまな業務をおこなう必要があります。
弁護士に相談・依頼をすれば、不動産の売却手続きをフルサポートしてくれるので、不動産売却をスムーズに実現できるでしょう。
遺産分割前の不動産売却時に生じるさまざまなトラブル解決に向けたサポートをしてくれる
遺産分割前に不動産売却をする際には、以下のような派生的な法的トラブルが生じる可能性があります。
- 一部の相続人が不動産売却についての意見を翻して売却手続きが頓挫した
- 不動産売却後に見つかった遺言書の有効性について相続人や受遺者との間で見解が分かれた
- 不動産の売却代金の取扱いや分配方法について相続人同士で意見が分かれた
- 不動産売却手続き時のコスト負担や代表者の報酬について相続人同士で争いが生じた など
弁護士はこれらの紛争の解決を目指して、示談交渉や調停、民事訴訟などに対応してくれるでしょう。
遺産分割前に不動産売却したいときには弁護士へ相談しよう
遺産分割前の不動産売却を検討しているなら、必ず事前に弁護士へ相談してください。
不動産をどのタイミングで売却するべきか、そもそも売却が適切なのか、遺産分割協議で不動産売却についてどのように扱うのかなどについて、冷静なアドバイスを期待できるでしょう。
遺産相続相談弁護士ほっとラインでは、遺産分割前の不動産売却などの深刻な遺産相続トラブルへの対応が得意な弁護士を多数紹介中です。弁護士に相談するタイミングが早いほど幅広い選択肢から対応策を検討できるので、速やかに信頼できる法律事務所にお問い合わせください。