
自分が亡くなった後、特定の人に財産を渡したいと考えている方もいるでしょう。そのような場合に利用できる方法のひとつが「死因贈与」です。
死因贈与は、財産を渡す人と受け取る人が生前に契約を結び、財産を渡す人が亡くなったときに効力が生じる仕組みです。遺言による遺贈とは異なり、双方の合意によって財産の引き継ぎを約束できるという特徴があります。
ただし、死因贈与には撤回や遺留分、相続税などの注意点もあります。契約を結べば必ず希望どおりに財産を渡せるとは限らないため、制度を正しく理解しておくことが大切です。
この記事では、死因贈与の基本的な仕組みから遺贈・生前贈与との違い、メリット・デメリット、契約書の作成方法、必要な手続きや税金まで詳しく解説します。
目次
死因贈与とは?遺贈・生前贈与との違い
死因贈与とは、財産を渡す人の死亡をきっかけとして効力が生じる贈与契約です。遺贈や生前贈与と似ていますが、契約の成立方法や財産を受け取るタイミングなどが異なります。
死因贈与とは財産を渡す人が亡くなったときに効力が生じる契約
死因贈与とは、財産を渡す人が亡くなったときに、その財産を受け取る人へ贈与することを約束する契約です。民法第554条に定められており、贈与者の死亡によって効力が生じます。
例えば、父親が生前に長男と「自分が亡くなったら所有する土地を長男に贈与する」と合意した場合、死因贈与契約が成立します。父親が生きている間は、原則として土地の所有権は父親に残り、死亡時に契約の効力が生じる仕組みです。
死因贈与の対象となる財産には、現金や預貯金、不動産、株式などがあります。また、法律上の相続人だけでなく、親族以外の人を受贈者に指定することも可能です。
ただし、契約が成立していても、後から撤回されたり、ほかの相続人との間で争いになったりする場合があります。確実な財産の引き継ぎを目指すには、契約内容や相続人への影響を十分に検討する必要があります。
死因贈与と遺贈の違いは財産を受け取る人の同意が必要かどうか
死因贈与と遺贈は、いずれも財産を所有する人の死亡によって効力が生じる点で共通しています。しかし、両者には財産を受け取る人の同意が必要かどうかという重要な違いがあります。
死因贈与は契約であるため、財産を渡す人と受け取る人の合意が必要です。一方、遺贈は遺言によって財産を譲る方法であり、遺言書を作成する段階で受け取る人の同意を得る必要はありません。
また、遺贈には法律で定められた遺言の方式を守る必要がありますが、死因贈与には同じ形式上の制限がありません。ただし、遺贈でも受け取る人が財産の取得を放棄できる場合があります。
| 比較項目 | 死因贈与 | 遺贈 |
|---|---|---|
| 成立方法 | 双方の合意 | 遺言者の意思表示 |
| 受取人の同意 | 契約時に必要 | 遺言作成時は不要 |
| 効力発生 | 贈与者の死亡時 | 遺言者の死亡時 |
| 形式 | 原則自由 | 法律上の方式が必要 |
| 撤回 | 原則可能だが制限あり | 原則自由 |
財産を渡す相手と事前に相談して内容を決めたい場合は死因贈与が、相手に知らせず自分の意思を遺したい場合は遺贈が選択肢になります。
死因贈与と生前贈与の違いは財産を渡すタイミング
死因贈与と生前贈与の大きな違いは、財産を渡すタイミングです。生前贈与では、贈与者が生きている間に契約に基づいて財産を移転できます。一方、死因贈与は贈与者の死亡によって効力が生じます。
例えば、親が子どもに自宅を生前贈与した場合、所有権の移転後は子どもの財産になります。しかし、死因贈与であれば、親は原則として亡くなるまで自宅を所有し続けられます。
税金にも違いがあります。通常の生前贈与は贈与税の対象ですが、死因贈与で取得した財産は原則として相続税の対象です。適用される控除や税率なども異なるため、税負担を考慮して方法を選ぶ必要があります。
なお、生前贈与であっても、贈与者が亡くなる前の一定期間に行われたものは相続税の計算に加算される場合があります。単純にどちらの方法が節税になるとは判断できません。
死因贈与には負担付死因贈与という方法もある
死因贈与には、財産を受け取る人に一定の義務を負わせる「負担付死因贈与」という方法があります。これは、介護や生活支援などを行うことを条件として、死亡後に財産を贈与する契約です。
例えば、高齢の親が子どもに対して「今後、自分の介護をしてくれる代わりに、亡くなったら自宅を贈与する」と約束するケースが考えられます。この場合、介護が受贈者の負担にあたります。
負担付死因贈与では、財産を受け取る人が約束した義務を果たしているかどうかが重要です。負担を履行しなかった場合には、契約解除などの問題が生じる可能性があります。
また、負担の全部またはそれに近い程度が履行されている場合、原則として贈与者による自由な撤回が認められないことがあります。介護の内容や期間、費用負担などを契約書に具体的に記載し、後のトラブルを防ぎましょう。
死因贈与のメリット・デメリット
死因贈与には、当事者同士で財産の引き継ぎを約束できるなどのメリットがあります。一方、相続人との争いや税金、契約撤回などのリスクもあるため、両方を理解しておくことが大切です。
メリット①|財産を渡す相手と事前に合意できる
死因贈与の大きなメリットは、財産を渡す人と受け取る人が事前に話し合い、合意したうえで契約を結べることです。遺言とは異なり、財産を受け取る側も契約内容を理解している状態を作れます。
例えば、親が子どもの一人に自宅を引き継がせたい場合、子どもと事前に話し合うことで、将来の住まいや管理方法などを確認できます。受贈者が不動産の取得を希望しているかどうかも把握できるでしょう。
また、受贈者が契約書の作成に参加すれば、約束した財産や条件について認識の違いが生まれるリスクを減らせます。
ただし、当事者間の合意だけで相続人全員の納得が得られるわけではありません。家族間の関係に配慮しながら進めることが重要です。
メリット②|遺言書のような厳しい形式を守らなくても契約できる
死因贈与には、遺言書のような厳格な形式が求められないというメリットがあります。遺言書は法律で定められた方式に従わなければ無効となる場合がありますが、死因贈与は当事者間の合意によって成立します。
そのため、契約書を作成する際にも、自筆証書遺言のように一定の事項を自書する必要はありません。パソコンで作成した契約書でも、当事者の意思に基づいて締結されたものであれば有効になり得ます。
ただし、形式が自由だからといって、内容を曖昧にしてよいわけではありません。特に不動産や高額な財産を贈与する場合には、契約の存在や内容を明確にする必要があります。
形式上の自由度が高いことと、手続きが簡単であることは別問題です。トラブル防止のため、書面による契約を基本としましょう。
メリット③|介護などの条件を付けて財産を渡せる
死因贈与では、負担付死因贈与を利用することで、介護や生活支援などの義務を条件として財産を渡せます。高齢者が将来の生活について希望を伝える手段としても活用できます。
例えば、一緒に暮らす子どもに介護を任せる代わりに、自宅を引き継がせる契約が考えられます。受贈者にとっても、将来取得する財産について事前に約束を得られる点がメリットです。
もっとも、介護は長期間にわたることがあり、負担の程度も状況によって変化します。「介護をする」とだけ記載すると、どこまで対応すればよいのか争いになるおそれがあります。
介護の方法や費用負担、施設入居時の対応などを可能な範囲で具体化しましょう。負担が履行できなくなった場合の取り扱いについても定めておくと安心です。
メリット④|不動産の仮登記によって権利を保全できる
不動産を死因贈与する場合には、所有権移転請求権の仮登記を利用できることがあります。仮登記とは、将来の本登記に備えて登記上の順位を確保するための制度です。
例えば、父親が子どもに土地を死因贈与する契約を結び、必要な要件を満たして仮登記を行えば、将来の登記手続きに向けた権利保全につながります。
仮登記には、贈与者が同じ不動産を第三者に処分した場合などに備える意味があります。ただし、仮登記をしただけで不動産の所有権が移転するわけではありません。
また、死因贈与契約が有効に撤回された場合などには、仮登記があっても財産を取得できない可能性があります。仮登記の要件や効果については、司法書士などの専門家に相談するとよいでしょう。
デメリット①|相続人との間でトラブルになる可能性がある
死因贈与のデメリットとして、贈与者が亡くなった後に相続人との間でトラブルになる可能性が挙げられます。特に、相続人の一人だけに多額の財産を渡す場合には注意が必要です。
例えば、父親が長男に自宅を死因贈与する契約を結んでいた場合、ほかの兄弟姉妹が「そのような約束は聞いていない」と反発することがあります。契約当時の判断能力や本人の意思が争点になるケースもあるでしょう。
さらに、契約書が存在しない場合や財産の内容が曖昧な場合には、契約の有効性自体が争われる可能性もあります。
こうした問題を避けるには、契約書を適切に作成し、必要に応じて公正証書にすることが有効です。家族に説明できる状況であれば、贈与の理由を事前に伝えておくことも検討しましょう。
デメリット②|遺留分を侵害すると金銭を請求される可能性がある
死因贈与によって財産を渡す場合でも、一定の相続人に保障されている遺留分に注意する必要があります。遺留分とは、法律で定められた相続人が最低限取得できる財産の割合に関する制度です。
例えば、亡くなった人に配偶者と子どもがいるにもかかわらず、財産の大部分を第三者に死因贈与した場合、遺留分を侵害する可能性があります。
遺留分を侵害された相続人は、受贈者などに対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる場合があります。その結果、財産を受け取った人がまとまった現金を準備しなければならないこともあるでしょう。
死因贈与契約を結んだからといって、相続人の遺留分を無視できるわけではありません。財産全体の価値と法定相続人の関係を確認しておく必要があります。
デメリット③|契約後でも撤回される場合がある
死因贈与は契約であるため、一度結べば必ず撤回できなくなると考える方もいるかもしれません。しかし、死因贈与には遺贈に関する規定が準用され、判例上、贈与者による撤回が原則として認められています。
例えば、生前に知人へ財産を死因贈与する約束をしたものの、後から事情が変わり、贈与者が撤回する場合が考えられます。受贈者が契約書を保管していても、撤回の効力が認められる可能性があります。
一方、負担付死因贈与では、受贈者が契約で定められた負担の全部またはそれに近い程度を履行している場合、原則として自由な撤回が制限されます。
撤回の可否は契約の内容や履行状況などによって異なります。受贈者は契約を結んだ時点で将来の財産取得が完全に確定するわけではないことを理解しておきましょう。
デメリット④|不動産を取得する際の税金や登記費用が高くなる場合がある
不動産を死因贈与で取得する場合には、登録免許税や不動産取得税などの費用が発生することがあります。これらの税負担は、通常の相続によって不動産を取得する場合と異なります。
例えば、相続を原因とする所有権移転登記の登録免許税率は原則0.4%ですが、死因贈与による所有権移転登記では原則2%です。同じ評価額の不動産でも、取得方法によって税額に差が生じます。
また、相続による不動産取得は原則として不動産取得税が非課税ですが、死因贈与では課税対象となるのが一般的です。税金のほかに、司法書士への報酬などが必要になる場合もあります。
特に評価額の高い土地や建物では負担が大きくなるため、死因贈与と遺贈、通常の相続を比較したうえで方法を決めることが重要です。
死因贈与契約の成立条件と契約書の作成方法
死因贈与を有効に成立させるには、財産を渡す人と受け取る人の合意が必要です。法律上は口頭でも成立し得ますが、後の争いを防ぐためには契約書を作成し、内容を明確にしておきましょう。
死因贈与は財産を渡す人と受け取る人の合意によって成立する
死因贈与は、贈与者と受贈者の意思が一致することによって成立します。財産を渡す人が一方的に希望を伝えるだけでは、死因贈与契約が成立したことにはなりません。
例えば、父親が「亡くなったら土地を長男に渡したい」と考えているだけでは、契約が成立したとはいえません。長男がその申し出を受け入れ、双方が合意する必要があります。
また、契約時には贈与者に契約内容を理解して判断する能力が求められます。認知症などによって意思能力が認められない状態で契約した場合、契約が無効になる可能性があります。
特に高齢者が契約する際には、本人の意思を十分に確認することが大切です。必要に応じて弁護士や公証人などに相談し、適切な手続きを進めましょう。
口約束でも成立するがトラブル防止のために契約書を作成する
死因贈与契約は、法律上、口約束でも成立する可能性があります。遺言書のように決められた形式を守る必要がないため、必ず書面を作成しなければならないわけではありません。
しかし、口頭だけの約束では、贈与者が亡くなった後に契約の存在を証明することが難しくなります。ほかの相続人から契約そのものを否定される可能性もあるでしょう。
また、贈与する財産の範囲や条件について、当事者間で認識が異なっていたことが後から判明する場合もあります。こうしたトラブルを避けるには、死因贈与契約書を作成して合意内容を残すことが重要です。
契約書には日付を記載し、贈与者と受贈者が署名するなど、本人が契約したことを確認できる形にしましょう。特に高額な財産を扱う場合は、専門家による確認も検討してください。
死因贈与契約書には財産の内容や契約条件を明記する
死因贈与契約書には、当事者の情報だけでなく、贈与する財産の内容や契約条件を具体的に記載する必要があります。内容が曖昧だと、死亡後の財産の引き渡しが難しくなるためです。
主に記載する項目は、以下のとおりです。
- 贈与者と受贈者の氏名・住所
- 死因贈与する財産の内容
- 贈与者の死亡によって効力が生じること
- 負担付死因贈与の場合は負担の具体的な内容
- 死因贈与執行者を指定する場合はその氏名
- 契約締結日と当事者の署名など
不動産を贈与する場合には、登記事項証明書の記載を参考に、所在や地番、家屋番号などを正確に記載しましょう。預貯金であれば金融機関名や支店名、口座番号などを明記します。
また、介護などの負担を定める場合は、実施する内容や期間を可能な範囲で具体化します。第三者が読んでも契約内容を理解できる書面を目指すことが大切です。
公正証書で契約書を作成すると証拠を残しやすい
死因贈与契約書は、公証役場で公正証書として作成することも可能です。公正証書とは、公証人が法律に基づいて作成する公文書のことです。
公正証書で契約を締結すれば、当事者の意思や契約内容について信頼性の高い証拠を残しやすくなります。契約書の原本が公証役場で保管されるため、紛失や改ざんのリスクを減らせる点もメリットです。
ただし、公正証書を作成したからといって、すべての相続トラブルを防げるわけではありません。贈与者の撤回や遺留分に関する問題が生じる可能性は残ります。
また、公正証書の作成には財産の価額などに応じた手数料が必要です。契約内容によって必要書類も異なるため、事前に公証役場へ相談すると手続きを進めやすくなります。
死因贈与執行者を指定しておくと死亡後の手続きを進めやすい
死因贈与契約では、贈与者が亡くなった後に契約内容を実現するため、死因贈与執行者を指定する方法があります。執行者を定めておけば、死亡後の財産引き渡しや登記手続きを進めやすくなります。
例えば、不動産を死因贈与する場合、執行者を指定していないと、相続人全員の協力が必要になることがあります。相続人の人数が多い場合や関係が悪い場合には、手続きが難航する可能性があります。
執行者を指定しておくことで、契約内容や権限に応じて必要な手続きを担当してもらえる場合があります。ただし、執行者の指定方法や権限の範囲は、契約内容と法的な取り扱いを確認する必要があります。
弁護士や司法書士などの専門家を候補とすることもできます。不動産を含む死因贈与では、執行者の指定を積極的に検討するとよいでしょう。
死因贈与の手続き方法と必要書類
死因贈与の手続きは、生前に契約を締結する段階と、贈与者の死亡後に財産を引き継ぐ段階に分かれます。契約内容や財産の種類によって手続きが異なるため、全体の流れを確認しておきましょう。
手順①|贈与する財産と受け取る人を決める
まずは、死因贈与の対象となる財産と、その財産を受け取る人を決めます。現金や預貯金、不動産、株式など、どの財産を誰に渡すのかを具体的に整理しましょう。
財産を決める際には、所有権や評価額、借入金などの負担がないかを確認する必要があります。特に不動産では、抵当権が設定されている場合や共有名義になっている場合もあるため注意が必要です。
また、財産を受け取る人が法定相続人であるかどうかも確認しましょう。相続人以外に財産を渡すこともできますが、遺留分や税金の負担などに影響することがあります。
死因贈与の対象財産だけでなく、贈与者が所有する財産全体を把握しておくことが大切です。相続人との公平性や将来の生活費も踏まえて検討しましょう。
手順②|当事者間で合意して死因贈与契約書を作成する
贈与する財産と受贈者が決まったら、当事者間で契約内容を話し合います。財産の種類や引き渡しの方法、必要に応じて受贈者が負担する義務などを確認しましょう。
双方が合意したら、死因贈与契約書を作成します。贈与者の死亡によって契約の効力が生じることを明記し、贈与する財産を特定できるように記載します。
負担付死因贈与の場合は、介護や生活支援の内容、履行できなくなった場合の対応なども決めておくことが望ましいでしょう。将来の争いを防ぐため、曖昧な表現はできるだけ避けてください。
契約書を作成した後は、双方が内容を確認して署名します。契約の有効性に不安がある場合には、締結前に弁護士などの専門家へ相談しましょう。
手順③|必要に応じて公証役場で公正証書を作成する
契約内容をより明確な証拠として残したい場合には、公証役場で公正証書を作成します。公正証書にすることは必須ではありませんが、不動産や高額な財産の死因贈与では検討する価値があります。
公正証書を作成する際は、事前に公証役場へ連絡し、契約内容や必要書類を確認します。本人確認書類や印鑑登録証明書、財産に関する資料などが必要になる場合があります。
公証人は当事者の意思を確認したうえで、公正証書を作成します。作成時には契約内容や財産の価額などに応じた手数料が発生します。
また、不動産を対象とする場合には、公正証書の作成とあわせて仮登記の必要性も検討するとよいでしょう。契約を残すことと将来の権利を保全することは、それぞれ別の対策です。
手順④|贈与者が亡くなったら契約に基づいて財産を引き渡す
贈与者が亡くなると、原則として死因贈与契約の効力が生じます。その後、契約内容に従って受贈者へ財産を引き渡すための手続きを行います。
預貯金を贈与する場合には、金融機関で必要な手続きを確認します。金融機関によって必要書類や対応方法が異なるため、死因贈与契約書だけで払い戻しを受けられるとは限りません。
また、株式などを贈与する場合には、証券会社などで名義変更や移管の手続きを進めます。財産の種類によっては、相続人や死因贈与執行者の協力が必要になることもあります。
契約内容に争いがある場合、財産の引き渡しが進まない可能性もあります。贈与者の死亡後は、契約書を確認し、必要に応じて専門家に相談しながら進めましょう。
手順⑤|不動産の場合は法務局で所有権移転登記を行う
死因贈与の対象が土地や建物である場合には、法務局で所有権移転登記を行います。登記とは、不動産の所有者などの情報を公的な記録に反映させる手続きです。
死因贈与によって不動産の所有権を取得した場合でも、登記を行わなければ第三者に対して権利を主張できない場面があります。そのため、死亡後は速やかに必要な手続きを確認することが大切です。
登記申請では、死因贈与契約書や贈与者の死亡を証明する書類、登記原因証明情報などが必要になります。執行者の有無や契約内容によって、申請方法や必要書類が変わる場合があります。
なお、死因贈与による登記は通常の相続登記とは手続きが異なります。登録免許税も原則として異なるため、司法書士に相談して進めると安心です。
死因贈与の手続きに必要な書類は財産の種類によって異なる
死因贈与の手続きでは、契約書に加えて財産の種類に応じた書類を準備する必要があります。金融機関や法務局など、手続きを行う窓口によっても必要書類が異なります。
一般的に必要となる書類の例は、以下のとおりです。
| 書類 | 主な用途 |
|---|---|
| 死因贈与契約書 | 契約内容の確認 |
| 死亡の記載がある戸籍謄本など | 贈与者の死亡確認 |
| 本人確認書類 | 受贈者などの確認 |
| 印鑑登録証明書 | 登記などの手続き |
| 登記事項証明書 | 不動産情報の確認 |
| 固定資産評価証明書など | 登録免許税の計算 |
これらは代表的な書類であり、すべてのケースで同じものが必要になるわけではありません。また、金融機関によっては独自の書式や追加資料を求められることがあります。
実際に手続きを進める前に、提出先へ必要書類を確認することが重要です。書類の取得には時間がかかる場合もあるため、早めに準備を始めましょう。
死因贈与にかかる税金と注意点
死因贈与によって財産を取得すると、原則として相続税の対象になります。また、不動産では登録免許税や不動産取得税が発生する場合もあります。税金だけでなく、遺留分や契約撤回についても確認しておきましょう。
死因贈与には贈与税ではなく相続税がかかる
死因贈与は贈与という名称ですが、税金の取り扱いでは通常の生前贈与とは異なります。死因贈与によって取得した財産は、原則として贈与税ではなく相続税の課税対象です。
これは、死因贈与が贈与者の死亡によって効力を生じることによるものです。相続税の計算では、死因贈与によって取得した財産も、相続や遺贈によって取得した財産とあわせて考える必要があります。
例えば、亡くなった人が長男に土地を死因贈与していた場合、その土地の価額は原則として相続税の計算対象になります。ただし、財産を受け取ったからといって必ず相続税が発生するわけではありません。
相続税には基礎控除があり、課税対象となる財産の合計額などによって納税義務の有無が決まります。税額の計算が複雑になる場合には、税理士に相談しましょう。
相続税には3,000万円+600万円×法定相続人の数の基礎控除がある
相続税には、一定額までの財産について税負担を軽減する基礎控除があります。基礎控除額は、次の計算式によって求めます。
相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人であれば、基礎控除額は4,800万円です。この場合、相続税の計算上の正味の遺産額などが基礎控除額以下であれば、通常は相続税がかかりません。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
| 5人 | 6,000万円 |
ただし、基礎控除の判定では、死因贈与による財産だけでなく、ほかの相続財産や一定の生前贈与なども考慮します。また、法定相続人の数には養子の人数に関する制限などがあります。
基礎控除額を超える場合でも、各種控除や特例によって納税額が変わることがあります。特例を利用するために申告が必要なケースもあるため、申告の要否は慎重に確認してください。
配偶者や一親等の血族以外が財産を受け取る場合は相続税が2割加算されることがある
死因贈与で財産を受け取る人によっては、相続税額が2割加算される場合があります。これは、亡くなった人との続柄によって適用される制度です。
原則として、亡くなった人の配偶者や一親等の血族以外が相続税の対象となる財産を取得した場合に、相続税額の2割加算が適用されます。
例えば、兄弟姉妹やおい、めい、友人などが死因贈与を受けた場合には、2割加算の対象となる可能性があります。また、孫が財産を受け取る場合にも注意が必要です。
ただし、孫であっても、亡くなった子どもの代わりに相続する代襲相続人である場合などは、2割加算の対象にならないことがあります。
2割加算は、取得した財産の価額を単純に2割増やす制度ではありません。一定の方法で計算した相続税額に加算する仕組みのため、税負担を確認する際は正しい計算が必要です。
不動産の死因贈与では登録免許税や不動産取得税がかかる
不動産を死因贈与によって取得する場合には、相続税とは別に登録免許税や不動産取得税がかかることがあります。これらは通常の相続による取得と取り扱いが異なるため、特に注意が必要です。
登録免許税は、不動産の所有権移転登記を行う際に課される税金です。死因贈与による所有権移転登記の税率は原則2%で、通常の相続による移転登記の原則0.4%より高くなります。
例えば、固定資産税評価額が2,000万円の不動産であれば、単純計算で死因贈与による登録免許税は40万円、通常の相続では8万円となります。ただし、実際の税額は課税標準や軽減措置などによって異なります。
さらに、死因贈与による不動産取得では、不動産取得税も原則として課税対象です。通常の相続では非課税となるため、取得方法によって費用に差が生じます。
不動産取得税の税率や軽減措置については、所在地の都道府県に確認しましょう。不動産を死因贈与する際は、事前に税金の試算を行うことが重要です。
相続税の申告が必要な場合は原則として死亡を知った日の翌日から10か月以内に行う
死因贈与によって財産を取得し、相続税の申告が必要になった場合には、期限までに申告と納税を行わなければなりません。
相続税の申告・納税期限は、原則として、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内です。死因贈与によって取得した財産も、この期限を意識して手続きを進める必要があります。
例えば、2026年4月10日に贈与者が亡くなり、受贈者が同日に死亡を知った場合、原則として2027年2月10日が申告・納税期限になります。
相続税の申告では、死因贈与による財産以外にも、預貯金や不動産、株式などの相続財産を把握する必要があります。財産評価や特例の適用に時間がかかることもあるため、早めに準備しましょう。
期限に遅れると、延滞税や無申告加算税などが課される場合があります。また、一定の税額軽減や特例の適用にも影響することがあるため、注意が必要です。
死因贈与で財産を渡しても相続人の遺留分には注意が必要
死因贈与を利用しても、法律で保障された相続人の遺留分を無視することはできません。遺留分を侵害する内容の契約を結んだ場合、贈与者の死亡後に金銭請求を受ける可能性があります。
遺留分が認められるのは、原則として配偶者、子どもなどの直系卑属、父母などの直系尊属です。兄弟姉妹には遺留分が認められていません。
例えば、子ども2人が相続人であるにもかかわらず、父親が全財産を友人に死因贈与する契約を結んでいた場合、子どもたちが遺留分侵害額請求を行う可能性があります。
遺留分侵害額請求には、原則として、相続の開始と遺留分の侵害を知ったときから1年という期間制限があります。また、相続開始から10年が経過した場合にも権利を行使できなくなります。
遺留分に関する争いを防ぐには、財産の全体額や相続人の構成を確認したうえで死因贈与を検討することが重要です。
負担付死因贈与では契約の撤回が制限される場合がある
死因贈与は原則として撤回が認められますが、負担付死因贈与の場合には事情が異なることがあります。受贈者が約束した負担をすでに履行している場合には、その利益を保護する必要があるためです。
最高裁判所の判例では、生前に履行する負担について、その全部またはそれに近い程度が履行された場合、特段の事情がない限り贈与者による撤回が制限されると判断されています。
例えば、長年にわたり介護や生活支援を行ってきた受贈者について、贈与者が一方的に死因贈与を撤回できないケースが考えられます。
ただし、負担付死因贈与であれば必ず撤回できなくなるわけではありません。負担の内容や履行の程度、契約締結の経緯、財産の価値などを考慮して判断されます。
そのため、負担付死因贈与では、受贈者が実際に行った介護や支援の記録を残しておくことも重要です。契約を結ぶ際には、将来の撤回や解除についても専門家に確認するとよいでしょう。
死因贈与とは死亡時に財産を渡す契約!遺贈・生前贈与との違いやメリット・デメリット、手続き方法を理解しよう
死因贈与とは、財産を渡す人と受け取る人が生前に合意し、贈与者の死亡によって効力が生じる契約です。遺贈とは異なり、受贈者の同意を得たうえで財産の引き継ぎを約束できるという特徴があります。
また、遺言書のような厳格な形式が求められず、介護などの負担を条件にできる点もメリットです。一方で、契約の撤回や相続人との争い、遺留分の侵害などに注意する必要があります。
特に不動産の死因贈与では、通常の相続より登録免許税などの負担が高くなる場合があります。契約内容だけでなく、将来の手続きや税金まで考慮して判断することが大切です。
死因贈与を検討する際は、契約書を作成し、必要に応じて公正証書や仮登記を活用しましょう。財産の内容や家族関係によって適切な方法は異なるため、弁護士や司法書士、税理士などの専門家に相談することもおすすめです。